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残業代未払いは労働基準法違反|残業代の計算方法・請求方法などを解説

弁護士監修記事
労働問題
2023年02月16日
2023年02月16日
残業代未払いは労働基準法違反|残業代の計算方法・請求方法などを解説
この記事を監修した弁護士
阿部 由羅弁護士 (ゆら総合法律事務所)
ゆら総合法律事務所の代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

労働者に残業をさせた場合、労働基準法に従い、使用者は労働者に対して残業代を支払う義務を負います。

したがって、残業代未払いは、使用者側の労働基準法違反に該当します。

労働基準法のルールを踏まえて、適正な残業代が支払われていない場合は、弁護士に相談して残業代請求をおこないましょう。

今回は、残業代の計算方法・請求方法・弁護士に依頼するメリットなどを、労働者側の視点から解説します。

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残業代が発生する労働(残業)は4種類

労働基準法上、残業代が発生する労働には「法定内残業」「時間外労働(法定外残業)」「休日労働」「深夜労働」の4種類があります。

法定内残業

「法定内残業」とは、労働契約上の所定労働時間を超え、かつ法定労働時間の範囲内の労働を意味します。

労働契約では、基本給の対象となる「所定労働時間」が定められます。

たとえば所定労働時間が「1日7時間」と定められた場合、1日7時間を超える部分は基本給ではカバーされないため、残業代の支給対象になります。

所定労働時間を超える労働時間は、「法定労働時間」を境として、「法定内残業」と「時間外労働(法定外残業)」の2つに区分されます。

「法定労働時間」とは、「1日8時間・1週間40時間」という、原則的な労働時間の上限のことです(労働基準法32条)。

たとえば、所定労働時間が「1日7時間」であれば、1日7時間を超え8時間以内の部分の労働が「法定内残業」に当たります。

時間外労働(法定外残業)

「時間外労働(法定外残業)」とは、法定労働時間を超える労働を意味します。

労働基準法32条では、労働時間の上限を、原則として「1日8時間・1週間40時間」と定めています。

これを「法定労働時間」といいます。

法定労働時間を超えて労働者を働かせることは、原則として違法です。

ただし、「36協定」と呼ばれる労使協定を締結した場合、協定および労働基準法の範囲内であれば、法定労働時間を超えて労働者を働かせることが認められます(労働基準法36条1項)。

たとえば、前述の所定労働時間が「1日7時間」と定められたケースを考えます。

この場合、1日7時間を超え8時間以内の部分の労働が「法定内残業」であるのに対して、8時間を超える部分の労働は「時間外労働」に当たります。

休日労働

「休日労働」とは、法定休日における労働を意味します。

法定休日とは、労働基準法35条の規定に基づき、労働者に与えられる休日です。

一般的には、法定休日は1週間に1回訪れます。

労働契約(または就業規則)上、休日が週2日以上と定められている場合でも、法定休日は1週間に1日だけです。

たとえば、土曜・日曜の週給2日制のケースを考えます。

この場合、土曜と日曜のどちらが法定休日であるかは、労働契約(または就業規則)の規定によって決まります。

労働契約等に規定がない場合は、日曜から土曜を1週間として、後に来る曜日が法定休日となります(上記のケースでは土曜)。

法定休日と労働日を事前に振り替えることなく、労働者が法定休日に労働した場合には、休日労働の残業代が発生します。

 深夜労働

「深夜労働」とは、午後10時から午前5時までの間におこなわれた労働を意味します。

深夜帯の労働は、生活リズムが不規則になるなど、労働者への負担が大きいと考えられます。

そのため、時間外労働手当や休日労働手当とは別に、使用者は労働者に対して深夜労働手当を支払わなければなりません。

残業代の割増賃金率

上記の4種類の労働(残業)のうち、法定内残業を除く3種類の労働(残業)については、通常の賃金に対して一定割合の割増賃金の支払いが義務付けられています(労働基準法37条1項、4項)。

各労働(残業)の割増賃金率は、以下のとおりです。

残業の種類 割増賃金率
法定内残業 100%
時間外労働 125%(大企業の場合、1か月当たり60時間を超える部分については150%)
深夜労働 125%
休日労働 135%
時間外労働かつ深夜労働 150%(大企業の場合、1か月当たり60時間を超える部分については175%)
休日労働かつ深夜労働 160%

なお、1か月当たり60時間を超える時間外労働については、労働基準法上は150%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。

その一方で、以下の①②のいずれかの要件を満たす中小企業については、1か月当たり60時間を超える時間外労働についても125%以上の割増賃金を支払えば足りるとする猶予措置が適用されています。

①資本金の額または出資の総額 小売業:5,000万円以下
サービス業:5,000万円以下
卸売業:1億円以下
その他:3億円以下
②常時使用する労働者数 小売業:50人以下
サービス業:100人以下
卸売業:100人以下
その他:300人以下

上記の中小企業に対する猶予措置は、2023年3月末で終了します。

したがって、2023年4月以降は、中小企業も、1か月当たり60時間を超える時間外労働に対して150%以上の割増賃金を支払うことが必要です。

【設例付き解説】原則的な残業代の計算方法

実際に以下の設例を用いて、残業代の金額を計算してみましょう。

<設例>2022年3月1週目~4週目(法定労働時間:160時間)について、

  • 所定労働時間は140時間
  • 実際の労働時間は170時間(法定内残業:20時間、時間外労働:10時間)
  • 休日労働は10時間
  • 休日労働のうち、2時間は深夜労働
  • 上記期間中の基礎賃金は28万円(※)
  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 一か月を超える期間ごとに支払われる賃金

※基礎賃金:給与計算期間中に、労働者に対して支給されたすべての賃金(残業代および以下の手当を除く)

各残業時間数と割増賃金率を整理する

まずは残業の種類ごとに、各残業時間数と割増賃金率を整理しておきます。

  • 法定内残業:20時間(割増なし(100%))
  • 時間外労働:10時間(割増賃金率125%)
  • 休日労働(深夜労働部分を除く):8時間(割増賃金率135%)
  • 休日労働かつ深夜労働:2時間(割増賃金率160%)

1時間当たりの基礎賃金を求める

次に、1時間当たりの基礎賃金を求めます。

1時間当たりの基礎賃金は、残業代計算において、割増率を適用する前に「時給」に相当します。

1時間当たりの基礎賃金
=給与計算期間中の基礎賃金÷給与計算期間に対応する所定労働時間
=28万円÷140時間
=2,000円

計算式を用いて残業代を算出する

残業時間数・割増賃金率・1時間当たりの基礎賃金が整理出来たら、これらの数値を以下の計算式に当てはめて、残業代の総額を算出します。

残業代=1時間当たりの基礎賃金×残業時間数×割増賃金率
残業代(法定内残業)=2,000円×20時間=4万円
残業代(時間外労働)=2,000円×10時間×125%=2万5,000円
残業代(休日労働(深夜労働部分を除く))=2,000円×8時間×135%=2万1,600円
残業代(休日労働かつ深夜労働)=2,000円×2時間×160%=6,400円
残業代(総額)
=4万円+2万5,000円+2万1,600円+6,400円
=9万3,000円

未払いの残業代を請求するには、残業の証拠を集めることが重要になります。

弁護士に相談すれば、証拠の収集や会社との交渉の面でもスムーズに進めることができるでしょう。

残業代について特殊なルールが適用されるケース

労働基準法では様々な給与形態・勤務形態が認められており、上記で解説した残業代の計算方法が当てはまらないケースもあります。

残業代計算に特殊なルールが適用される主なケースについて、労働基準法のルールの概要を解説します。

歩合給制

歩合給制の場合、基本給部分と歩合給部分に分けて、以下の計算式により残業代を算出します。

基本給部分
1か月の基本給÷所定労働時間×時間外労働時間数×125%
歩合給部分
1か月の歩合給÷総労働時間×時間外労働時間数×25%

基本給は所定労働時間に対して支払われるのに対して、歩合給は総労働時間に対して支払われるという性質の違いがあるため、上記のように区別した計算方法が採用されています。

みなし労働時間制(裁量労働制)

労働基準法では、以下の3つのみなし労働時間制(裁量労働制)が認められています。

①事業場外裁量労働制(労働基準法38条の2 事業場外で業務に従事し、労働時間を算定し難い場合に適用されます。
②専門業務型裁量労働制(同法38条の3 以下の19の業務のうち、高い専門性が要求されるために遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものにつき、労使協定に基づいて適用されます。
・新商品や新技術などの研究開発業務
・情報処理システムの分析、設計業務
・記事取材、編集などの業務
・新たなデザインの考案業務
・放送プロデューサー、ディレクター業務
・コピーライター業務
・システムコンサルタント業務
・インテリアコーディネーター業務
・ゲームソフトの創作業務
・証券アナリスト業務
・金融商品の開発業務
・大学教授の業務
・公認会計士業務
・弁護士業務
・建築士業務
・不動産鑑定士業務
・弁理士業務
・税理士業務
・中小企業診断士業務
③企画業務型裁量労働制(同法38条の4 事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析業務のうち、遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものにつき、労使委員会決議に基づいて適用されます。

事業場外裁量労働制の場合、原則として所定労働時間労働したものとみなされるため、残業代は発生しません。

ただし、事業場外での労働後にオフィス等へ戻って仕事をした場合、オフィスにいる時間帯については残業代が発生することがあります。

専門業務型裁量労働制の場合は労使協定、企画業務型裁量労働制の場合は労使委員会決議に基づいて、それぞれあらかじめ定められた時間数労働したものとみなされます。

したがって実労働時間と残業代の金額は連動せず、あらかじめ定められた労働時間を基準として、残業代の金額が計算されます。

変形労働時間制

「変形労働時間制」とは、一定期間における1週間の平均労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、各労働日の所定労働時間を調整できる制度です(労働基準法32条の2、32条の4)。

通常であれば法定内残業や時間外労働に当たる場合でも、変形労働時間制が適用されていると、ルールによってはこれらの残業に当たらなくなるケースがあるので注意が必要です(反対のケースもあり得ます)。

フレックスタイム制

「フレックスタイム制」とは、清算期間当たりの総労働時間を設定し、その範囲内で労働者が始業・終業時刻を自ら決定する制度です(労働基準法32条の3)。

フレックスタイム制の場合、清算期間中の実労働時間が総労働時間を超えた部分が「時間外労働」に当たります。

通常とは時間外労働の定義が異なる点に注意が必要です。

 農林・畜産・養蚕・水産事業

以下の例のように、農林事業および畜産・養蚕・水産事業に従事する労働者には、労働時間の規制が適用されません(労働基準法41条1号)。

したがって、これらの労働者が長時間労働したとしても、残業代は発生しません。

①農林事業 ・土地の耕作、開墾
・植物の栽植、栽培、採取、伐採 など
②畜産・養蚕・水産事業 ・動物の飼育
水産動植物の採捕、養殖 など

管理監督者、機密事務取扱者

経営者と一体的な立場にある「管理監督者」と、経営者や管理監督者の活動と一体不可分の職務を行う「機密事務取扱者」(秘書など)については、労働時間規制が適用されず残業代が発生しません(労働基準法41条2号)。

なお管理監督者とは「管理職」を意味するものではなく、権限・待遇・時間的裁量などの観点から、経営者と一体的な立場にあると評価できる者を指します。

管理監督者としての実質を備えていないにもかかわらず、管理監督者として残業の支給を受けていない者は「名ばかり管理職」と呼ばれ、使用者が労働基準法違反の責任を問われる可能性があります。

監視または断続的労働の従事者

以下に例を挙げる監視または断続的労働の従事者は、手待ち時間が長いなど、業務上の負荷が比較的軽いと評価される場合があります。

そのため監視または断続的労働の従事者については、所轄労働基準監督署長の許可を得ることを条件として、労働時間規制を適用除外とすることが認められています(労働基準法41条3号)。

  • 守衛
  • 学校の用務員
  • 団地の管理人
  • 会社役員の専属運転手 など

未払い残業代を請求する方法

会社に対して未払い残業代を請求する方法には、主に交渉・労働審判・訴訟の3つがあります。

会社と直接交渉する

まずは会社に直接連絡をとり、残業代の支払いを求めて直接交渉するのが一般的です。

交渉が円滑にまとまれば、低コストで早期に残業代を回収できるメリットがあります。

残業の証拠をきちんと揃えて会社に提示すれば、残業代の支払いについて会社を説得しやすくなるでしょう。

労働審判を申し立てる

会社との交渉がまとまらない場合には、裁判所に労働審判を申し立てることが次の選択肢です。

参考サイト:労働審判手続|裁判所

労働審判手続きでは、客観的な立場にある裁判官と労働審判員が、労使の主張を公平に聞き取って審判をおこないます。

審理は原則として3回以内で終結するため、訴訟よりも迅速に解決を得られる点が大きなメリットです。

ただし、労働審判に対して適法な異議申立てがあった場合には、自動的に訴訟手続きへと移行します。

残業代請求訴訟を提起する

労使間の主張が大きく乖離している場合には、訴訟で残業代請求の可否・金額を争います。

訴訟では、公開法廷において、残業の事実や残業代の金額を主張・立証しなければなりません。

他の手続き以上に、主張構成と証拠の収集・提示が重要な意味を持ちます。

未払い残業代の請求を弁護士に依頼するメリット

会社に対して未払い残業代を請求する場合、弁護士へのご依頼がお勧めです。弁護士に未払い残業代請求を依頼した場合、以下のメリットを受けられます。

①証拠に基づき適正な残業代を請求できる 労働審判や訴訟を見据えて、残業の有力な証拠を収集し、実態に即した適正額の残業代を請求できます。
②会社と対等に争うことができる 資金や組織力などの面で上回る会社に対しても、法的な知見を武器として、正々堂々と残業代の支払いを請求できます。
③労働審判・訴訟の法的手続きを一任できる 法的手続きに発展した際にも、弁護士に対応を一任することで、戸惑うことなく臨むことができます。

会社から適正な残業代が支払われずにお悩みの方は、一度弁護士までご相談ください。

まとめ

会社から支払われている残業代が少ないのではないかと感じた場合、労働基準法のルールに従って、客観的な残業代を計算してみましょう。

勤務形態等によっては、残業代計算に当たって特殊なルールが適用される場合もあるため、弁護士へのご相談をお勧めいたします。

弁護士に未払い残業代請求を依頼すれば、資金や組織力で上回る会社に対しても、法的な根拠に基づく主張を正面からぶつけることができます。

残業代の未払いにお悩みの方は、お早めに弁護士までご相談ください。

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