勤務先から給料や残業代が支払われない場合、早めに行政機関や専門業者に相談することが大切です。
給料未払いの相談窓口には、労働基準監督署・弁護士・司法書士・社会保険労務士などがあります。
各相談先には、それぞれメリットとデメリットがあるので、ご自身の状況に合わせて適切な相談先を選択してください。
この記事では、給料未払いの相談先やメリット・デメリット、相談先の選び方を解説します。
給料未払いが起きる原因
本来あってはならない給料未払いですが、トラブルが起きているのも事実です。
考えられる原因を紹介します。
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経営が傾いている
企業が経営不振に陥り、従業員の給料を支払えるだけの余裕がない可能性があります。
「給料を支払いたいけど、資金がない」状態です。
企業側から「今月分はちょっと…」と、お願いされているケースもあるかもしれません。
しかし労働契約に基づき、会社は従業員に給料を支払う義務があります。諦めて泣き寝入りせず、未払い分の給料を請求しましょう。
給料支払いの手続きを忘れている
会社が支払い手続きを忘れてしまい、給料未払いになるケースもあります。
「手続きを忘れてしまう」背景には、ずさんな労務管理体制が考えられるでしょう。
例えば、単純に「手続きを忘れていた」だけの場合もあれば、「給料を振り込む段階になって、資金が足りないことに気づく」パターンもあり得ます。
いずれにしても、ずさんな管理の結果、給料の未払いが生じているといえます。
労働基準監督署の指導や従業員からの未払賃金請求を受けることで、労働問題や従業員の扱いに対する意識が高まり、改善が見込めるかもしれません。
従業員とのトラブル
中には、従業員とのトラブルを理由に、給料を支払わない企業もあります。
【トラブル例】
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従業員の失敗や勤務態度などを理由に給料を支払わないのは、違法行為にあたります。
労働契約に基づき、会社は従業員に対して給料を支払う義務があるため、未払いの給料はしっかり請求しましょう。
給料未払いの相談先
給料未払いに関する、おもな相談先は以下の4つです。
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労働基準監督署
労働基準監督署は、厚生労働省の管轄下にある行政機関です。
全国の市区町村に設置されており、労働者からの給料未払いに関する相談を受け付けています。労働基準監督署に相談すると、事業所に対する臨検調査を行った上で、給料未払いなどの違反があれば行政指導や刑事処分を行ってもらえる可能性があります。会社としても、労働基準監督署から行政指導や刑事処分を受ければ、事態を重く捉えて給料未払いの解消に動く可能性が高いです。
また、都道府県労働局の「総合労働相談センター」からも相談が可能です。
総合労働相談センターに相談し、給料未払いの事実が疑われる場合は、労働局から所轄の労働基準監督署に取りついでもらえます。
なお都道府県労働局は、労働基準監督署やハローワークの上位機関として、統括的な役割を担っています。
【組織図】
参照元:厚生労働省|組織図
司法書士
給料の未払い金額が140万円以下の場合には、「認定司法書士」への相談も可能です。
金額に制限があるのは、司法書士法によって業務範囲が限定されているからです。
【認定司法書士とは】 司法書士特別研修を受け、法務大臣から認定を受けた司法書士。 請求額が140万円までの民事紛争について、代理人となって手続きを行うことができる。 参照元:法務省|司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務の認定 |
給料未払いの請求が140万円を超えない際は、認定司法書士に相談すれば、交渉や裁判の代理をしてもらえるので検討してみましょう。
社会保険労務士
「特定社会保険労務士」に相談するのも、1つの方法です。
【特定社会保険労務士とは】 厚生労働大臣が定める特別研修を修了したうえで、試験に合格した社会保険労務士。 合格すると、裁判外紛争解決手続きの代理人になることができる。 |
例えば、都道府県労働局や都道府県労働委員会にあっせん(または調停)を申し立てる際には、特定社会保険労務士に代理を依頼することが可能です。
ただ、特定社会保険労務士は、給料の未払い金が120万円を超える際、弁護士と共同で受任しなければなりません。
認定司法書士と同様に、業務範囲に制限がある点に注意しましょう。
弁護士
いくつかの相談先の中で、制限なく相談・依頼を受けて対応できるのが、弁護士です。
弁護士なら、会社側との交渉や手続き、裁判に至るまで一任できます。
労働問題に詳しい弁護士に相談すると、見通しも含めて的確なアドバイスがもらえるため、精神的な安心にも繋がるでしょう。
給料未払いを公的機関や専門家に相談するメリット
これまで紹介した給料未払いの相談先窓口には、それぞれ異なる特徴があります。
各相談先のメリットを紹介します。
相談先 |
メリット |
労働基準監督署 |
・相談料がかからない ・会社全体の労務環境が改善される可能性がある |
認定司法書士 |
・民事調停・訴訟などの代理を依頼できる(140万円以下に限る) ・裁判手続きの書面作成をサポートしてもらえる |
特定社会保険労務士 |
・労働問題に特化した知識や経験を有している ・ADRの代理を依頼できる(120万円を超える場合は弁護士と共同受任) |
弁護士 |
・請求額に上限がない ・会社との交渉・法的手続きを全面的に依頼できる |
労働基準監督署
労働基準監督署に相談するメリットは、以下2点です。
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大きなメリットは、無料相談ができるところです。
労働基準監督署は、公的機関のため、相談費用がかかりません。
また、事業所全体の違法な点・問題点を正す指導を行うため、労働環境の改善が見込めます。
専門家に依頼すると費用がかかるため、まずは労働基準監督署に相談してみることも一つの選択肢です。
参照元:厚生労働省|労働者の皆さまへ
認定司法書士
認定司法書士に相談するメリットには、140万円以下の請求について、代理や書面作成サポートをしてもらえる点が挙げられます。
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民事調停とは、調停委員と裁判官が当事者同士の間に入り、話し合いを行う手続きです。
訴訟とは、裁判所の法廷における主張・立証を経て、原告の請求の当否を裁判所が判断する手続きです。
参照元:厚生労働省|労働者の皆さまへ(2p)
140万円以下の請求であれば、認定司法書士に代理を依頼することで、自分の代わりに調停や訴訟の場に臨んでもらえます。
また、裁判所に提出する書面の作成もサポートしてもらえるため、スムーズに手続きを進められるでしょう。
特定社会保険労務士
特定社会保険労務士に相談するメリットとしては、労働問題に関する知識が豊富な点や、ADRの代理を依頼できる点が挙げられます。
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社会保険労務士は、労働および社会保険の専門家です。
弁護士や司法書士は、幅広い法律問題を取り扱いますが、社会保険労務士は、労働・社会保険に関する業務のみ取り扱っています。
そのため、労働問題に対する知識が豊富であり、実務経験をもとに労働者をサポートできます。
また、特定社会保険労務士は、裁判ではなく話し合いによって解決を図る「ADR」と呼ばれる手続きの代理も依頼可能です。
【ADRとは】 裁判によらず、法的なトラブルを解決する方法のこと(裁判外紛争解決手続き)。 例)仲裁・あっせん・調停など 参照元:法務省|裁判外紛争解決手続き(ADR)について |
弁護士
弁護士は、未払い給料の請求に関する交渉や法的手続きなどを、請求額の上限なく全面的に任せられるところがメリットです。
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認定司法書士や特定社会保険労務士は、給料未払いの金額が一定額を超えると、業務範囲の制限によって対応できなくなります。
しかし、弁護士の場合は請求額に上限がありません。
そのため、高額な未払い請求額であっても、弁護士なら対応してもらえます。
弁護士はすべての法的手続きに対応できるため、交渉段階から訴訟などの見込みを見通した上でより良い解決を目指せる点もメリットといえるでしょう。
給料未払いを公的機関や専門家に相談するデメリット
各相談先のデメリットは以下のとおりです。
相談先 |
デメリット |
労働基準監督署 |
・間接的な監督指導にとどまる ・きめ細かいサポートは受けられない |
認定司法書士 |
・請求額に上限がある ・労働審判の代理はできない |
特定社会保険労務士 |
・ADR以外の手続きの代理はできない ・請求額が120万円を超える場合、かえって労働者の経済的負担が大きくなる
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弁護士 |
・費用が割高になる傾向がある |
労働基準監督署
労働基準監督署のデメリットは、給料未払いの直接的な解決が難しい点です。
労働基準監督署が行う指導は、あくまでも企業全体に対して行われるものです。
個別の紛争に介入して解決を図るものではないため、すでに発生している給料未払いの直接的な解決につながるとは限らない面があります。
また、裁判の手続きの代理人や書類作成サポートなどを行ってくれるわけではないので、未払い給料の請求については自分で手続きを進めなければなりません。
認定司法書士
認定司法書士に相談するデメリットは、業務範囲が制限されている点です。
認定司法書士が代理を行えるのは、未払い給料の請求額が140万円以下のケースに限られています。
請求金額が140万円を超える際は、認定司法書士では対応できないため、弁護士に依頼しなければなりません。
また、認定司法書士が代理できる法的手続きは、簡易裁判所で行われるものに限られます。そのため、地方裁判所で行われる労働審判については、認定司法書士に依頼できない点にも注意が必要です。
特定社会保険労務士
特定社会保険労務士のデメリットも、認定司法書士と同じく業務範囲に制限がある点です。
特定社会保険労務士は、ADR以外の手続きを代理することはできません。たとえば訴訟・労働審判・調停などを利用するには、弁護士等への依頼が必要になります。
ADRについても、請求額が120万円を超える場合には、特定社会保険労務士だけではなく、弁護士との共同受任が必要になります。
【共同受任とは】 1つの案件について、複数の専門家が担当すること |
つまり、120万円を超える未払い給料を請求するには、「弁護士と社会保険労務士の両者に依頼費用を支払わなければならなくなる」ということです。
特定社会保険労務士に支払う費用の分、労働者の負担が大きくなるのがデメリットといえます。
弁護士
弁護士のデメリットには、費用が高額になりやすいことが挙げられます。
確かに弁護士に依頼する場合、司法書士や社会保険労務士など、他の専門家に依頼するより費用がかかる傾向があります。対応可能な範囲の広さや、豊富な法的知識に基づき対応してもらえる点などと、弁護士費用の高さはトレードオフといえるでしょう。
弁護士費用の負担が重い場合は、各種保険の弁護士費用特約を利用することも考えられます。ご自身が加入している保険の保障内容を調べて、弁護士費用特約が附帯されているかどうかをご確認ください。
給料未払いの相談先を選ぶ基準
「相談先が複数あるから、どこに相談したらいいのか迷ってしまう」という方もいるかもしれません。
以下の基準を参考に相談先を選びましょう。
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会社が倒産しているか
企業がすでに倒産している場合は、まず労働基準監督署への相談をおすすめします。
なぜなら、「未払賃金立替払制度」を利用できるからです。
【未払賃金立替払制度とは】
企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、未払賃金の一部を立替払いしてもらえる制度。
引用元:厚生労働省|未払賃金立替払制度の概要と実績
労働基準監督署は、未払賃金立替払制度の相談窓口でもあります。
立替金を受け取るには、一定の条件を満たす必要があります。ご自身が条件を満たしているかどうか、労働基準監督署の窓口に相談してみましょう。
会社側に弁護士がついているかどうか
会社側に弁護士がついている場合は、労働者側も弁護士に相談するのがおすすめです。この場合、労働審判や訴訟に発展する可能性が高いため、二度手間を避ける観点から、すべての法的手続きに対応できる弁護士に当初から依頼するのがよいでしょう。
未払い金額が高額か
未払い金の請求額を基準にする方法です。
【例】
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請求額が少ない場合は、専門家に依頼すると費用倒れになるおそれがあるため、労働基準監督署への相談が有力になります(弁護士費用特約などを利用できる場合は、この限りではありません)。
専門家に依頼する場合は、上記のとおり、請求額に従って適切な依頼先をご選択ください。
相談前に確認しておくべき2つのこと
給料未払いの手続きをスムーズに進めるためには、「未払いの状況」と「希望の解決方法」を明確にしておくことが大切です。
未払いの状況を説明できるようにしておく
未払いの給料がある事実や経緯を説明できるようにしておきましょう。
以下の要点を踏まえて準備をしておくと、スムーズに相談できます。
【例】
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勤務時間や金額がわかるものがあれば持参するのがおすすめです。
何度か会社側に掛け合っている方もいるかもしれません。
今までに自分がアプローチしてきたことがあれば、あわせて伝えましょう。
希望の解決方法を明確にしておく
特に専門家に相談する場合には、希望の解決方法を明確にしておくことも重要です。
特定社会保険労務士・認定司法書士・弁護士は、さまざまなアドバイスを行いつつも、最終的には依頼者の希望に従って対応を行います。
話し合いでの解決を望むのか、裁判をしてでも回収したいのかなど、自分の希望を明確にしておきましょう。
未払い分の給料を請求する際の注意点
未払い分の給料を請求する際は以下の点に注意しましょう。
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請求するには証拠が必要
未払い給料を請求するためには、証拠を準備しなければなりません。
なぜなら、証拠がなければ給料請求権の存在を立証できないからです。
具体的には、以下の証拠をできる限り用意しましょう。
準備するもの |
例 |
本来の給与の金額がわかるもの |
就業規則・雇用契約書 など |
実際の支払い金額がわかるもの |
給与明細・源泉徴収票 など |
労働していた事実がわかるもの |
タイムカード・勤怠表・業務日誌 など |
「すべて会社が管理しているから、手元に何もない」という方もいるかもしれません。
もし、手元にない場合は、勤務時間を明記した手帳やメモなども証拠として利用できます。万が一のために、直近の手帳などは保管しておくといいでしょう。
手帳なども一切ないときは、弁護士へ相談しましょう。
弁護士から会社側へ証拠書類の提示を求めれば、会社が開示に応じるケースもあります。
未払い給料の請求には時効がある
未払い給料の請求権は、以下の期間が経過すると時効消滅します。
【時効期間】
参照元:厚生労働省 |
例えば、2020年4月30日が給料日だとしましょう。
この日に未払いであれば、賃金請求権が履行遅滞となると同時に、時効期間のカウントダウンが始まります。
賃金を請求できる期間は「給料日から3年」、つまり2023年4月30日を過ぎると時効成立となります。
時効を過ぎた分は、たとえ未払いであっても請求できないため、数年分遡って請求をしようとお考えの方は、早めの行動が重要です。
なお、2020年3月31日以前に発生した賃金に関しての時効は2年となっていますので、注意しましょう。
「給料未払い」に関してよくある質問
給料未払いは、さまざまな雇用形態や状況で起こり得ます。
よくある質問を3つ紹介します。
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退職後でも未払い給料の請求はできる?
退職後でも、未払い給料の請求は可能です。
ただし、通常の賃金の場合は3年、退職金は5年の時効があるため、時効期間内に請求する必要があります。
また、2020年3月以前に生じた賃金の時効は2年です。
時効期限内かどうか確認し、時効前であれば早めに請求しましょう。
アルバイトの未払いも請求できる?
アルバイトやパートも未払い請求ができます。
なぜなら、アルバイトやパートであっても、会社と雇用契約を結んでいる労働者として保護されているからです。
企業側は賃金を支払う義務があり、労働者は未払い賃金を請求できる権利があります。
給料支払いが遅れた分の利息は請求できる?
未払い分の給料とあわせて、遅延損害金を請求できます。
遅延損害金とは、一言でいうと給料日に支払いをしなかったことに対するペナルティです。
本来支払われるべき日に賃金の支払いがないと、労働者が生活に困るケースがあるかもしれません。
そのため、損害を被ったペナルティとして、未払い給料に上乗せして遅延損害金を請求できます。
利息の仕組みと似ていることから、「遅延利息」とも呼ばれていますが、厳密には利息ではありません。
まとめ
給料未払いの相談先としては、主に労働基準監督署・司法書士・社会保険労務士・弁護士の4つが挙げられます。
しかし、労働基準監督署への相談は直接的な解決に繋がりにくく、司法書士・社会保険労務士には業務範囲の制限があります。
そのため、基本的には最初から弁護士に相談するのが、スムーズかつ安心でしょう。
弁護士に依頼すれば、請求額の上限を気にすることなく、給料未払い問題の解決策を幅広く検討することができます。
弁護士費用について懸念される方も多いと思いますが、弁護士が支払い方法について配慮してくれる場合もあります。
また、弁護士費用特約や法テラスの立替払制度を利用することも一つの選択肢です。
勤務先からの給料未払いにお悩みの方は、お近くの弁護士までご相談ください。
労働問題について弁護士に相談する 電話相談可・初回面談無料・完全成功報酬 の事務所も多数掲載! |
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