遺産相続をするのにあたって相続財産の調査をおこなったところ、母親や父親の借金が見つかったという方も多いのではないでしょうか。
相続における、親の借金の取り扱いや対処法を知りたい方も少なくありません。
相続放棄などによって、親の借金を相続するのを避けたいと考えるのは当然です。
ただし、親の借金の相続に関しては注意点も多くあります。
手続きも複雑で期限も決められているため、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
本記事では、相続における親の借金の基本理解、親の借金を相続しない方法、親の借金を返済する必要があるケース、親の借金を相続してしまった場合の対処法、相続における親の借金に関する相談窓口、親の借金に関するよくある質問について解説します。
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親の借金は必ず相続するの?借金相続の基本理解
親の借金は、相続人の子どもが必ず相続しなくてはならないのでしょうか。
以下、借金相続の基本的な対応についてみていきましょう。
1.被相続人の債務も相続財産に含まれる
原則として被相続人の債務は相続人が引き継ぎ、相続人が借金の返済などをすることになります。
【相続財産に含まる主な債務】
- 借入金(親の借金など)
- 未払金
- 保証債務・連帯債務
- 保証金・買掛金など
- 公租公課
- 葬式費用
親の借金やローンの残高などの借入金、支払いが終わっていない各種費用(未払金)は、相続財産のなかに含まれる債務です。
親が連帯保証人になっていた場合、その債務も相続財産に含まれます。
所得税・消費税といった税金が未払いだった場合も、相続人の債務として支払わなくてはなりません。
そのほか葬式費用も債務になりますが、被相続人の死亡に伴う必要な支出であることから、相続税を算出する際は、葬儀費用を相続財産から差し引くことが可能です。
もっとも、葬式費用は厳密には亡くなってから相続人が負担する費用であるため、遺産分割の対象とするには相続人全員の合意が必要と理解されている点に注意が必要です。
財産の相続が決まった場合は、被相続人の債務がどのくらいあるか慎重に調べるようにしましょう。
2.借金額の把握には財産調査が必要になる
クレジットカード・カードローン・消費者金融といった被相続人の借金の有無や残高は、「信用情報機関(JICC・CIC・KSC)」に開示請求をおこなうことで調べられます。
信用情報機関とは、クレジットカードやカードローンなど個人が金融取引をおこなった記録(信用情報)を収集・管理する機関です。
相続人が信用情報機関に対し開示請求をおこなえば、ローンの残高や借入先などがわかります。
開示請求は、インターネットや郵送でもおこなえます。
被相続人の債務については、被相続人の自宅や郵便物によって確認できる場合もあります。
被相続人の自宅から通帳や領収書、契約書などの書類が見つかるかもしれません。
これらの書類からも、借金の詳細を把握できることがあるのです。
3.相続開始から3ヵ月以内に手続きをおこなう
親の借金などの債務は、必要な手続きをおこなうことで相続せずにすみます。
これらの手続きができる期限は、相続が発生したことを知ってから3ヵ月以内です。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
3ヵ月という期間は、相続の方法を慎重に考えるための「熟慮期間」と呼ばれます。
自分の財産状況や相続人の関係などを考慮して、相続の方法を決めるとよいでしょう。
なお、被相続人が亡くなっていたことを知ってから3ヶ月が経過していた場合でも、判例上、相続財産が全くないと信じ、かつそのように信じたことに相当な理由があるときなどは、相続財産の全部又は一部の存在を認識したときから3カ月以内に申述すれば、相続放棄の申述が受理されると解釈されています。
このような場合は弁護士に相談する必要があるでしょう。
親の借金を相続しない方法|相続放棄と限定承認
相続財産には、親の借金などの債務も含まれてしまいます。
ただし、以下にあげる方法によって親の借金を相続しないようにすることが可能です。
【親の借金を相続しない方法】
- 相続放棄
- 限定承認
相続放棄|財産も負債も一切相続せずに済む
相続放棄とは、被相続人の財産を一切相続しないための手続きです。
相続放棄は家庭裁判所に申し立てをおこない、裁判所がそれを認めることで効力が生じます。
相続放棄の手続きをしたあとに、「やはり遺産を受け取りたい」と考えても原則として取り消すことはできません。
相続放棄をすると、マイナスの財産だけでなくプラスの財産も相続できなくなります。
相続放棄の手続きは、相続開始を知ってから3ヵ月以内におこなう必要があります。
相続放棄については、以下の記事も参考にしてください。
【参考】相続の放棄の申述 | 裁判所
限定承認|相続した財産の範囲内で債務を引き継ぐ
限定承認とは、相続人が相続したプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産も相続する法律上の手続きです。
限定承認では相続した財産の価値が親の借金などマイナスの財産を上回る場合、その差額を手元に残すことができます。
しかし、相続した財産の価値がマイナス財産よりも少ない場合には、その差額を支払う必要はありません。
このように、限定承認では被相続人の債務を負うリスクを最小限に抑えることができるので、相続財産の詳細がわからない場合や、相続財産が多額の負債を含む場合に有効な選択肢となります。
ただし個々の相続人が自分の判断だけで手続きができる相続放棄と違い、限定承認は相続人全員が共同でおこなう必要があるので注意してください。
ほかの相続人の同意がないと、限定承認をえらぶことはできません。
また、手続きが複雑ですので、一般に弁護士の選任が必要となりますし、また、弁護士費用も相続放棄の場合と比べると高額になります。
相続財産に不動産がある場合には競売のために裁判所に納める余納金も負担となります。
結果として限定承認が適しているケースが限られていますので、弁護士に相談するようにしましょう。
限定承認については、以下の記事も参考にしてください。
【参考】相続の限定承認の申述 | 裁判所
親の借金を返済する必要がある2つのケース
相続放棄や限定承認によって、親の借金を相続しないことも可能です。
しかし以下のケースでは、親の借金を相続人である子どもが返済しなくてはなりません。
【親の借金を返済しなければならないケース】
- 単純承認をおこなったケース
- 相続人が借金の連帯保証人であるケース
単純承認をおこなったケース
単純承認とは、相続人が被相続人の財産をそのまま受け継ぐことです。
相続人は、単純承認するという意思を表明したり、特定の手続きをおこなったりする必要はありません。
しかし、相続が始まった日から3ヵ月以内に限定承認や相続放棄の申請をしないと、単純承認したことになります。
また、相続財産を消費した場合なども同様です。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
単純承認した場合、相続人は被相続人の財産を全て引き取ります。
相続財産には、不動産や預金などのプラスの財産だけでなく、借金や未払金などのマイナスの財産(債務)も含まれます。
プラスの財産がマイナスの財産よりも多いことが確かなら、単純承認で問題ありません。
しかし、被相続人の借金を相続人が返済するのを避けたい場合は、限定承認や相続放棄を検討し、3ヵ月以内に手続きする必要があります。
相続人が借金の連帯保証人であるケース
被相続人における債務の連帯保証人となっている場合、相続放棄をしても保証人の責任は消えません。
なお自己破産などの債務整理手続きをおこなうことで、連帯保証人としての責任から解放される可能性があります。
相続放棄だけで不十分な場合は、債務整理の方法を検討するのがおすすめです。
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親の借金を相続してしまった場合の対処法
借金相続について理解していたとしても、意図せず親の借金を相続してしまうケースも少なくありません。
そのような場合、どう対処すればよいのでしょうか?
【親の借金を相続してしまった場合の対処法】
- 債務整理を検討する
- 団信の有無を確認する
- 時効の援用について確認する
債務整理を検討する
親の借金を相続してしまった場合、債務整理をおこない負担を軽減する方法もあります。
債務整理は借金の減額や免除、支払い期限の延長により借金の負担を減らす方法です。
債務整理の種類は、以下のとおりです。
【債務整理の種類】
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
任意整理|将来利息をカットできる可能性がある
任意整理とは、利息のカットや支払期間の延長について債権者と交渉し、借金の返済をスムーズにおこなうための方法です。
任意整理によって利息のカットや支払い期間の延長が実現すれば、返済の負担が大幅に軽減されます。
なお任意整理をおこなったあとは、合意した内容に従って定期的に返済を続けていかなければなりません。
任意整理は、ほかの債務整理手続きと比べて借金の減額率は低いですが、裁判所が関与しないことで手続きが迅速・柔軟におこなえるという利点があります。
弁護士に依頼することで、債権者との交渉や書類作成などを代理してもらえるでしょう。
個人再生|借金額を最大で10分の1まで減らせる
個人再生とは、裁判所の手続きを利用して再生計画を認可してもらうことで借金の金額を大きく減らし(最大で10分の1)、残りの借金を3年〜5年のあいだに支払っていく方法です。
借金を減らすためには、「再生計画案」を作成して、債権者に承認してもらう必要があります。
個人再生は任意整理と比べて手続きが複雑ですが、借金の減額率が高いのがメリットです。
また、個人再生は自己破産と違って、原則として財産を手放す必要はありません。(ただし、担保がついている財産はに残すことはできません。さらに、残す財産の分だけ返済額が増えることもあります)。
自己破産|借金の一切を免除してもらえる
自己破産とは、裁判所に破産申立書を提出して、財産と債務を整理し、免責を得る(借金の返済義務を免れる)ことができる法的な手続きです。
裁判所は申立人の収入や負債の状況、負債の発生原因などを検討して、免責を許可するかどうか決めます。
自己破産により借金はなくなりますが、一定額を超える財産(99万円を超える預貯金や20万円以上の有価証券類、価値のある不動産・動産など)は換価されますし、、手続き中に一部の職業に就けなくなったりすることがあります。
ただし、自己破産をしたからといって、仕事を失ったり、生活に困ったりすることはありません。
団信の有無を確認する(住宅ローンの場合)
親の借金を相続してしまった場合、団信の有無も確認しておく必要があります。
団信とは住宅ローンの名義人が亡くなったり高度障害に陥ったりした場合に、保険金によって住宅ローンの残額が返済される制度です。
被相続人が亡くなった際は、住宅ローンの借り入れ先である金融機関に確認しましょう。
金融機関で団信の有無を確認したうえで、手続きや必要書類を案内してくれます。
時効の援用について確認する
相続した負債については、消滅時効の規定があります。
相続人がその負債を相続した時点で、負債が5年以上返済されていなかった場合は、消滅時効により返済義務がなくなる可能性があるのです。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
この場合、相続した負債の支払い義務はなくなります。
ただし、消滅時効を主張するためには、「時効の援用」の意思表示をおこなう必要があります。
時効の援用とは、時効が成立した債務について、債権者に対して支払い義務がないことを主張することです。
時効の援用をするのに、裁判所に対する手続きは必要ありません。
親の借金の相続は弁護士に!おすすめの窓口3選
相続においては、親の借金が発覚した段階で迅速に弁護士へ相談することを強くおすすめします。
弁護士であれば相続財産調査から相続放棄の申述までシームレスに対応できるため、借金問題をいち早く解決できるでしょう。
また弁護士に依頼すれば相手との交渉や手続きを代理してくれることから、相続人の心理的・身体的負担が大幅に軽減されるのも大きなメリットです。
弁護士に相談するためにおすすめの窓口として、以下が挙げられます。
【親の借金の相続に関するおすすめ窓口】
- ベンナビ相続
- 法テラス
- 弁護士会
ベンナビ相続|相続問題が得意な弁護士が探せる
相続問題に関する法律相談をお考えの方は、「ベンナビ相続」の利用がおすすめです。
ベンナビ相続は、相続問題に精通した弁護士の情報を集めたポータルサイトになります。
無料相談サービスのほか、電話・オンライン面談・LINEでの相談ができる弁護士も多数掲載していますので、ご自身に合った方法で気軽に相談することができるでしょう。
さらに、遺産分割協議や遺留分減殺請求、遺言書作成など、相続問題の種類に応じて最適な弁護士を検索することも可能です。
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法テラス|資力基準を満たせば無料で相談できる
法テラスは、法律トラブルに直面した方が、専門家の助言を受けることができる機関です。
法テラスでは、収入や資産が一定の基準を満たす方に対して、弁護士による無料相談を実施しています。
無料相談は、面談・電話・オンライン・メールのいずれかの方法で申し込むことができますが、同じ問題については3回までという制限があります。
もし、弁護士に依頼することになった場合でも、「民事法律扶助制度」を利用すれば、弁護士費用の一部または全部を法テラスが立て替えてくれます(無償となる訳ではありません)。
法テラスのサービスは、誰でも利用できるわけではありませんが、費用の負担が不安な方は、法テラスがおすすめです。
法テラスについては、以下の公式サイトを確認してください。
弁護士会|遺言・相続に関する相談に乗ってくれる
親の借金の相続に関しては、弁護士会に相談するのも、ひとつの手段です。
弁護士会には、相続問題に関する専門知識や経験を持つ弁護士が多数在籍しています。
弁護士会に相談すれば、相続の手続きや法律上の注意点などを丁寧に説明してもらえるでしょう。
また、弁護士会によっては、相続問題に関する無料の電話相談やメール相談を実施しているところもあります。
弁護士会への相談方法や費用などについては、日本弁護士連合会や各地域の弁護士会のホームページをご覧ください。
【参考】日本弁護士連合会:遺言・相続に関する弁護士会の法律相談窓口
親の借金に関するよくある質問
親の借金の相続については、事前に把握しておいたほうがよい項目がいくつかあります。
こちらでは、親の借金の相続に関してよくある以下の質問について解説します。
【親の借金の相続に関してよくある質問】
- 全ての相続人が相続放棄したら借金はどうなる?
- 離婚して疎遠になった親の借金も相続するの?
- 相続放棄をしたら生命保険も受け取れないの?
Q.全ての相続人が相続放棄したら借金はどうなる?
全ての相続人が相続放棄した場合も、財産が清算されるまで借金を含め財産の管理にかかわる必要があります。
具体的には、財産管理を任せる「相続財産管理人」を選定します。
相続財産管理人として選ばれるのは、一般的に弁護士です。
相続財産管理人が債権者を特定し、家庭裁判所の承認を得て支払いに必要な手続きを進めます。
ただし、相続財産が不足して債権回収が困難な場合は、債権者は保証人に対して支払いを求めることができます。
Q.離婚して疎遠になった親の借金も相続するの?
親と連絡が取れなかったり、親の死を知らなかったりしても、親と子どもの間の相続権と相続責任は存在します。
親が借金を残して亡くなった場合、子どもはその借金を引き継ぐことになります。
相続放棄や限定承認をする場合は、3ヵ月の期限に間に合うように、なるべく早く手続きを開始しましょう。(被相続人が亡くなってから3ヵ月でなく、相続人が相続開始の事実を知ってから3ヵ月が手続きの期限です。)
Q.相続放棄をしたら生命保険も受け取れないの?
死亡保険金は、契約者と被保険者が同一人の場合、保険金受取人の固有の財産として扱われます。
したがって、受取人に相続人が指定されていれば、相続放棄をしても保険金を受け取ることが可能です。
ただし、受取人が被相続人に設定されている場合は受け取れません。
まとめ|親の借金がある場合の相続は慎重に!
被相続人の親に借金がある場合、相続開始から必要な手続きをしないなどで単純承認が成立すると、親の借金も相続することになります。
一方で相続放棄や限定承認の手続きをすることで、親の借金を相続しない方法もあります。
相続放棄や限定承認を成立させるためには、決められた期限内に複雑な手続きを完了しなくてはなりません。
しかし、これらの確認や調査、手続きを全て相続人自らがおこなうのは難しいでしょう。
親の借金についてスムーズに処理するためにも、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
費用はかかりますが、相続財産調査から相続放棄手続きまで全ての手続きを一任できるため、相続人の負担を軽減できるうえに、親の借金を処理することができます。
親の借金がある場合の相続は、なるべく早く専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
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