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相続放棄をするのに支払いをした|相続放棄はできる?返金される?詳しく解説

被相続人に多額の負債があった場合、相続人は相続放棄をすれば負債の引継ぎを免れることができます。

ただし被相続人の債務を遺産の中から支払ってしまったら、相続放棄ができなくなるかもしれません

自分が相続人になったとき最も気を付けるべきことは、相続放棄をする前に被相続人の財産には手をつけないことです。

この記事では、相続放棄を検討している方に向けて、相続放棄前にやってはいけないことや、実際に相続放棄の手続き方法についてわかりやすく解説します。

特に被相続人の財産や負債が不明であるときには、知らないと損をする重要な知識になりますので、参考にしてみてください。

【注目】相続放棄をする予定なのに遺産から支払いをしてしまったあなたへ

被相続人の債務や葬儀費用を遺産から支払ってしまい、相続放棄できなくなるのでは…と不安になっていませんか。

結論から言うと、遺産から「何を支払ったか」によって相続放棄が認められるかどうかは変わります。まずは弁護士に相談するのがよいでしょう。

弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。

  • あなたのケースで相続放棄が認められるかわかる
  • 相続放棄ができない場合の対処法について相談できる
  • 依頼すれば、相続放棄の手続きを任せられる
  • 相続放棄以外の相続問題についても相談できる

ベンナビ相続では、相続放棄を得意とする弁護士をあなたのお住まいの地域から探すことができます。無料相談・電話相談などに対応している弁護士も多いので、まずはお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した弁護士
武藏 元
武藏 元弁護士(法律事務所エムグレン)
相続人や財産の調査から依頼したい/遺産に不動産がありスムーズに分けたい方は経験豊富な弁護士へご相談ください。
https://souzoku-pro.info/offices/tokyo/tokyoto-shibuyaku/917/

相続債務を支払ってしまった!相続放棄ができるケースとできないケース

良かれと思って被相続人のために債務を支払ったのに、そのために相続放棄ができなくなったと焦ったら、以下のことを確認してください。

支払いは、被相続人の財産から支払いましたか?それとも、あなたの財産から立て替えましたか?

もし被相続人の財産から支払ってしまった場合は、相続放棄ができなくなる可能性があります。

相続放棄ができなくなる法定単純承認とは

法定単純承認とは、客観的に「相続する意思がある」と認められる行為です。

法定単純承認の結果、相続放棄が認められなくなります。

「相続する意思があると認められる行為」とは、亡くなった人の財産や負債に手を加えて増やしたり減らしたりする行為です。

法定単純承認に該当する例として、以下の行為が挙げられます。

被相続人の賃貸住宅の解約や片付け

被相続人が暮らしていた賃貸住宅の解約は、法定単純承認に該当する行為とされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。

賃貸契約の解約は、法律的には被相続人が持つ「賃借権」という財産を処分したことになるからです。

この場合は、大家や管理会社側から、賃料未払いなどにより賃貸借契約の解除を申し出てもらう対応をとることで法定単純承認を回避できます。

また、賃貸住宅の解約に伴い、家財道具や遺品の処分も法定単純承認に当たる場合があるため注意が必要です。

ただし、単に不用品を処分した場合には法定単純承認には当たりません。

高価な家具家電や宝石類など、一般的に高価な値が付くものを処分すると、法定単純承認に当たります。

一見して高価なものとは思えなくとも、実は価値がある場合もありますので、処分の際には専門業者に依頼するといいでしょう。

被相続人の債権を行使

被相続人の権利を代わりに行使すれば、法定単純承認に当たります。

たとえば、被相続人が貸していたお金を相続債務者に請求する行為は法定単純承認として相続放棄ができなくなるので注意しましょう。

自分の財産を用いて債務を支払った場合|相続放棄できる

被相続人の財産に手を加えなければ法定単純承認にはなりません。

そのため、自分の財産を使って被相続人の債務を支払うことは法定単純承認に当たらず、相続放棄は認められます。

たとえば被相続人の最後の入院費を、自分の財産から立て替えて支払った場合は法定単純承認には当たりません。

ただし、あなたが入院費の保証人になっている場合や、被相続人の配偶者である場合には、あなた自身の債務として支払う義務があります。

相続財産を使って債務を支払った場合|相続放棄できない可能性が高い

被相続人の財産を使って支払ってしまった場合、それが被相続人の債務であっても法定単純承認とみなされ、相続放棄できない可能性があります。

先ほどの例でいうと、被相続人の最後の入院費を、被相続人名義の預金から支払った場合は法定単純承認とみなされるかもしれません。

葬儀費用を相続財産で支払ったら

葬儀費用は、相当範囲内であれば被相続人の財産から支払っても法定単純承認とは認められないため、支払った後も相続放棄はできます。

火葬や埋葬、お寺に払う費用など、通常の葬儀の範囲内であれば被相続人の財産の処分には当たらず、法定単純承認とはならないとする裁判例も出ています。
(東京控判昭和11年9月21日、大阪高決平成14年7月3日)

ただし、必要以上に華美な演出や高価な装備を施した装備をおこなうことは、通常の葬儀の範囲内とは認められない可能性もあります。

どの程度なら高価といえるか、分相応といえるかの判断基準は明確にはされていません。

被相続人に債務がありそうなときには特に、相続財産から葬儀費用を支出しない方が無難かもしれません。

相続放棄後にすでに支払ってしまったお金を取り戻すことはできる?

相続放棄をすれば、相続債務の返済義務は一切なくなるはずです。

しかし、相続債権者の請求を受けてつい返済してしまったという方もいるでしょう。

相続放棄をすればさかのぼって返済義務もなくなるのなら、支払ってしまったお金は取り戻せるのでしょうか。

原則支払ったお金を取り戻すことは不可能

既に支払ってしまったお金を相続債権者から取り戻すことは原則不可能です。

あなたの返済が「第三者弁済」に当たり、有効な弁済として認められるからです。

相続放棄の申述をしたことにより、相続開始時にさかのぼって、あなたが被相続人の債務を返済する義務は消滅します。

債務の返済義務がさかのぼって消滅したことで、あなたのした返済は、返済義務のない者からの返済となります。

これを「第三者弁済」といいます。

有効な弁済だと信じて受け取ったのに、急に勘違いだったから返金してほしいといわれたら、弁済を受ける債権者の地位が危うくなります。

そのため、法律上第三者弁済は原則として有効とされています(民法474条1項)。

そのため、有効な弁済を受けた相続債権者には、返還義務はないことになるのです。

お金を取り戻すことができる例外的な事例

上記のように、第三者弁済は「原則」として有効です。

しかし、もちろん例外もあります。

以下の場合に該当すれば、第三者弁済は無効になり、支払ってしまったお金を取り戻せる可能性があります。

第三者弁済が無効になる場合

原則有効である第三者弁済が無効になるケースは以下のとおりです。

  • 弁済することに正当な利益がないにも関わらず他の相続人の意思に反して弁済した場合(民法第474条2項
  • 弁済することに正当な利益がないにも関わらず相続債権者の意思に反して弁済した場合(民法第474条3項
  • 債務の性質上、第三者からの弁済が許されない場合(民法第474条4項
  • 契約で第三者弁済が禁止されている、または制限されている場合(民法第474条4項

「正当な利益がある人」とは、(連帯)保証人、担保不動産の物上保証人、後順位抵当権者など、主債務者からの弁済がされないと不利益を被る人のことを指します。

債務の性質上、第三者からの弁済が許されない場合とは、たとえば画家が先に代金を領収してモデルの絵を描く契約をしていた場合などです。

その人が義務を果たすことに意味がある債務(モデルの絵を描くという債務)なら、第三者弁済はもちろん無効です。

詐欺や強迫により支払ってしまった場合

相続債権者から強迫されて無理やり支払わされた場合には、返済を取り消して支払った金額の返還を請求できます。

たとえば、相続放棄をしたと何度伝えても債権者が聞き入れず、支払いを強要された場合は、取り消しが認められ返金を請求できます(民法第96条1項)。

また、「相続放棄をしてもこの債務は例外的に返済しなければならない」と言われ騙されるなど、詐欺によって返済した場合も、取り消しが認められる可能性があります。

税金などの公租公課の場合

税金や公的年金、保険料などの公租公課は、相続放棄後でも請求すれば返金に対応してくれる可能性があります。

返済義務のない他人の債務を返済してしまった場合、返還請求をして相手が対抗しなければ、返済は受けられます。

しかし年末に被相続人が亡くなり、年をまたいで相続放棄が受理された場合には、支払ってしまった固定資産税の返済を受けることはできません。

相続放棄をしていない相続人に請求する

相続債権者に対する返還請求が認められないとしても、相続放棄をしていない他の相続人に対しては、返済を請求できます。

第三者弁済をしたあなたは、返済をした金額の分だけ相続債権者から「債権者」の立場を引継ぎます。

これを「弁済の代位」といいます(民法第499条)。

対して相続放棄をしていない他の相続人は、被相続人から「債務者」の立場を引き継いでいます。

そのため、債務者である他の相続人に対して立替金を請求できるのです。

相続放棄をする前に知っておきたい基礎知識

相続放棄をしてしまうと、相続債務の返済義務を免れる一方、一切の相続財産を受け継ぐ権利もなくなります。

被相続人との関係が疎遠であった方は特に、遺産や負債の把握が難しい場合がありますので、あらかじめ以下の点を抑えたうえで判断しましょう。

一切の相続債務を支払う必要はなし

相続放棄の申述をすると、始めからあなたは相続人ではなかったとみなされるため、被相続人の債務を支払う義務は一切なくなります。

家賃や入院費も支払う必要はありません。

相続債権者からの請求があった場合は相続放棄をしたことを伝え、支払いを拒否しましょう。

相続分は他の相続人に移る

相続放棄は、相続債務を免除しますが、同時に相続財産を引き継ぐ権利も失います。

自分の法定相続分を受け取る権利はなくなり、他の相続人が相続財産を分けることになります。

【事例】
被相続人X、相続財産 預貯金1000万円、負債400万円

推定相続人 配偶者 A
BおよびC
  
配偶者A 子B 子C
相続割合 2分の1 4分の1 4分の1
相続財産 500万円 250万円 250万円
相続債務 200万円 100万円 100万円

※子Cが相続放棄をした場合、Cの相続分がBに移る

配偶者A 子B
相続割合 2分の1 2分の1
相続財産 500万円 500万円
相続債務 200万円 200万円

※子BおよびCが相続放棄をした場合、Xの直系尊属である両親が相続人となる

相続人:配偶者A,Xの父Y,Xの母Z

配偶者A 父Y 母Z
相続割合 3分の2 6分の1 6分の1
相続財産 約666万円 約166万円 約166万円
相続債務 約266万円 約66万円 約66万円

民法940条第1項の管理義務

【改正法|民法第940条第1項】

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

引用元:民法第940条第1項|e-Gov法令検索

2021年の民法(相続法関連)改正で、相続放棄をした者の管理義務が変更され、2023年5月1日より施行されます。

現在の法律では、相続放棄をした後でも次の管理者に引き継ぐまでは、相続人は自分の財産と同一の注意をもって管理しなければなりません。

たとえば田舎で一人暮らしをしていた親が亡くなって家が空き家になった場合、離れて暮らし相続放棄をしていても、相続人であった子には空き家の管理責任が課せられます。

改正により、このケースでは子が親名義の家に居住している場合にのみ、相続放棄後も不動産を引き継ぐまで管理責任が課せられることになります。

この法改正により、相続放棄をした元相続人に過酷な管理義務が課せられることがなくなることが期待されます。

撤回は不可能

相続放棄は一度申述したら、撤回はできません。

負債ばかりだと思って相続放棄したら、その後財産が見つかったとしても、錯誤による相続放棄の撤回は認められません。

3ヵ月間の熟慮期間内によく検討したうえで、相続放棄をするかどうかを決めましょう。

家庭裁判所への申請が必須

相続放棄は、家庭裁判所に申述し、許可決定を受けることで認められます。

提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

必要書類

相続放棄申述は、下記の書類を準備して管轄の家庭裁判所に提出しましょう。

手数料は800円で、収入印紙で納める必要があります。

  1. 相続放棄申述書(書式-相続放棄申述書
  2. 被相続人の住民票除票等
  3. 相続放棄申述人の戸籍謄本
  4. 被相続人の死亡の記載のある戸籍または除籍

上記4点の他に、申述人が相続人であることがわかる戸籍等をそろえて提出する必要があります。
参照:相続の放棄の申述 | 裁判所

手続き期限は原則3ヵ以内

相続放棄ができるのは、自分が相続人であることを知ってから3ヵ月です。

しかし、被相続人と疎遠であった方などは、3ヵ月以内の判断が難しいこともあるでしょう。

期間内の判断が難しい場合は、3ヵ月の熟慮期間が過ぎる前に、期間の伸長を家庭裁判所に申し立てることができます。

参照:相続の承認又は放棄の期間の伸長 | 裁判所

限定承認との違い

限定承認とは、被相続人のプラスの財産の額を限度として、負債額を引き継ぐ相続手続きです。

相続放棄との違いは、財産も負債も相続することです。

限定承認は申立手続きがとても複雑なうえ、選択すべきかどうかの判断も難しいため、必ず専門家のアドバイスを受けましょう。

【限定承認が有効となるケースの例】

負債が多いことがわかっている場合

<相続財産>
自宅不動産(被相続人の持分2分の1、約400万円相当)のみ
負債1000万円

<相続人>
相続人が被相続人と自宅不動産で同居

相続人が負債を免れるために相続放棄をすると、被相続人名義の不動産に居住し続けることができなくなります。

そのため、限定承認をして相続債権者に対して400万円分の返済義務を負うことにより、自宅不動産の持分400万円相当を相続できます。

限定承認を申し立てる際は、以下の点に注意しましょう。

  • 相続人全員でおこなう必要がある
  • 3ヵ月以内という期限がある
  • 手続きが大変複雑
  • 不動産が値上がりしている場合、みなし譲渡所得税がかかる可能性がある
 

相続放棄後に取るべき対応

相続放棄をした後は、最初から相続人ではなかったという立場になります。

相続財産や負債に関わることは一切避けるようにしましょう。

相続放棄をしたことで新たに相続人になる人がいる場合は連絡をする

相続放棄をしたことによって、新たに相続人になる方がいる場合は、あらかじめ相続放棄することを伝えておきましょう。

突然相続債権者から連絡がきて、わからずに支払って単純承認となってしまったり、負債を知らずに相続してしまったりするのを避けるためです。

【相続放棄をして新たな相続人が発生する場合】

被相続人:A
相続人:Aの子B・C(Aの配偶者は既に他界)

B、Cが2人とも相続放棄をした場合、Aの直系尊属(両親)であるDとEが新たに相続人になる

【相続放棄をしても新たな相続人が発生しない場合】

被相続人:A
相続人:Aの配偶者、Aの子B・C

Bのみが相続放棄をした場合は新たな相続人は発生せず、B以外の相続人2人で相続財産を分ける

遺産には原則手をつけない

相続放棄後も遺産には手を付けないようにしましょう。

わざと財産を隠匿したり、ひそかに消費したりすると、相続放棄後でも法定単純承認に該当し、覆されてしまう可能性すらあるのです。

相続放棄後に被相続人の財産を処分した場合には、相続債権者に対して損害賠償義務を負うことになります。

相続放棄後も遺産には手を付けず、被相続人のために必要な支出があれば立て替えて、後に相続人から清算を受けましょう。

相続債務は一切支払わない

相続放棄の可能性がある場合は、相続債権者から請求を受けても一切支払わないようにしてください。

相続放棄前に遺産から一部でも支払うと、法定単純承認とみなされて相続放棄ができなくなってしまいます。

自分の財産から支払えば法定単純承認とは認められませんが、相続放棄後に債権者に対して返済を求めることはできません。

相続放棄後も請求されたときの対処法

相続放棄後に、被相続人の債務を支払うよう請求された場合には、「相続放棄申述受理通知書」を示して相続放棄をしたことを伝えましょう。

相続債権者によってはコピーの提示でも構わない場合もあります。

「相続放棄申述受理通知書」とは、家庭裁判所から相続放棄が認められた際に発行される書面です。

「相続放棄申述受理通知書」は一度の申述につき1通しか発行されず再発行もされませんが、相続放棄を申述した家庭裁判所に申請すれば、何度でも発行してもらうことができます。

ただし、証明書の発行には150円の手数料を収入印紙で納める必要があります。

 

まとめ

被相続人の負債でも、遺産の中から支払ってしまったら「法定単純承認」行為とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。

相続放棄の可能性がある場合には、被相続人の財産には手を付けないようにしましょう。

被相続人の最後の入院費など、必要な場合はいったん自分の財産から立て替えをすれば、相続放棄の後に遺産の中から清算ができます。

ただし、相続手続きはとても複雑です。

自分で判断すると、想定外の不利益を被る可能性があります。

相続放棄を検討中の方は、弁護士に相談してみるのをおすすめします。

専門家に相談することで思わぬ不利益を避け、手続きをスムーズに進めることができるでしょう。

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