インターネット上の匿名の発信者を特定するためには「発信者情報開示請求」という手続きが必要になります。
この手続きでは、サイト管理者からIPアドレスやタイムスタンプ(以下では、総称して「IPアドレス」と呼びます。)の開示を受けて、その後、通信を経由したプロバイダから発信者の氏名や住所などの発信者情報の開示を受けるのが一般的です。
しかし、IPアドレスで本当に発信者を特定できるのか気になる方もいるでしょう。
この記事では、発信者情報開示請求を検討している方に向けて、まずIPアドレスから判明する情報や保存期間に関する注意点などを説明します。
それから、開示請求で発信者者を特定するまでの流れ、IPアドレスの開示請求にかかる期間と費用、弁護士に依頼するメリット、発信者を特定するのが難しいケースなどについて解説します。
サイト管理者にIPアドレスの開示請求をしたいけれど、細かい手続きはどうすればいいんだろう...と悩んでいませんか?
結論から言うと、開示請求は自身でも行えます。しかし、法的手続きが必要になる場面が非常に多いです。
法的手続きは複雑で手間もかかるため、弁護士への相談・依頼をおすすめします。弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。
- 開示請求が認められるか判断してもらえる
- 開示請求をスムーズに進めるためのアドバイスを得られる
- 依頼すれば、投稿者特定に必要な手続きを適切かつ迅速におこなえる
- 依頼すれば、投稿者特定後の刑事告訴なども対応してもらえる
ベンナビITでは、発信者情報開示請求を得意とする弁護士をあなたのお住まいの地域から探すことができます。無料相談・電話相談などに対応している弁護士も多いので、まずはお気軽にご相談ください。
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IPアドレスの開示請求をする前に知っておくべき基礎知識
発信者情報開示請求では、まずサイト管理者やサービス事業者などに、発信者のIPアドレスの開示を求めることが多いです。
しかし、なぜIPアドレスの開示を求める必要があるのか分からない方もいるでしょう。
そこでIPアドレスの開示を求める必要性や、サイト管理者などのIPアドレスの保存期間について確認しておきましょう。
IPアドレスで経由プロバイダを特定できる
IPアドレスとは、データの通信相手を識別するために割り当てられた識別番号のことで、一般的には「インターネットで通信をするための住所」などといわれます。
このIPアドレスから特定できる主な情報は、以下のとおりです。
- 投稿者のいる国・地域
- 投稿者が利用している経由プロバイダ
IPアドレスを特定できても、直ちに,発信者の氏名・住所・連絡先などを知ることはできません。まず判明する情報は,発信者が利用した経由プロバイダです。
そこで,次にその経由プロバイダに対して発信者情報開示請求をすることで発信者の情報を開示できる可能性があります。
そのため、発信者情報開示請求では、まず発信者のIPアドレスの開示を目指すことが多いでしょう。
経由プロバイダが保存するIPアドレスには期間がある
事業者によって異なりますが、経由プロバイダのIPアドレスの保存期間は投稿若しくは投稿に用いられたサービスにログインしてから「3ヵ月程度」といわれています。
特に,モバイル系の経由プロバイダ(ドコモ,ソフトバンク等)の場合はログ保存期間が短いといわれています。
そのため、経由プロバイダにログが残っている間に,発信者情報開示請求をおこなう必要があります。仮に削除されてしまっている場合は、IPアドレスから発信者を特定することは難しいでしょう。
その場合は,IPアドレス以外のルートからの発信者特定を検討することになります(電話番号,メールアドレス等)。
IPアドレスの開示請求から投稿者を特定するまでの流れ
2022年10月に改正プロバイダ責任制限法が施行されたため、現在は従来の「発信者情報開示請求」と新設の「発信者情報開示命令」の2通りの方法で発信者を特定することができます。
ここでは、従来の「発信者情報開示請求」で、権利侵害をしている匿名の発信者者を特定するまでの流れを解説します。
①サイト運営へIPアドレス等の開示請求をする
まずは、サイト管理者やサービス事業者に発信者のIPアドレス,タイムスタンプ等を開示するよう請求します。
サイト管理者に直接請求する方法もありますが、基本的には開示に応じないため、裁判所に「発信者情報開示仮処分命令」の申し立てを行うことがオーソドックスな方法です。
申し立て後、裁判官や相手方との審尋を経て,裁判所が仮処分命令を発令する心証を抱いた場合は,や裁判所から担保金の告知があり,その後担保金を納付した後、裁判所から仮処分決定が発令されます。
発令後,サイト管理者から不服申立が出なければ,サイト管理者からIPアドレス等が開示されます。
②IPアドレスから経由プロバイダを特定する
次に、IPアドレスから発信者が利用しているプロバイダを特定します。
特定は「WHOISサービス」などを利用することで可能で、開示されたIPアドレス(「192.0.2.34」などのような数字)を入力することでプロバイダ名を把握することができます。
代表的なプロバイダには、ドコモ,ソフトバンク,KDDI,AsahiNet、OCN、@nifty、ぷらら、BB.exciteなどがあります。
ただし,who isで特定したプロバイダ(MNO)が別の業者に回線を貸している場合もあり(MVNO)、そのような場合はwho isのみで経由プロバイダを特定することはできません。
③プロバイダに対して発信者情報開示請求をする
続いて、特定できたプロバイダに対して発信者の氏名や住所などを開示するよう請求します。
プロバイダに対する請求にも任意開示と法的手続きの2通りがありますが、経由プロバイダが任意開示に応じることはほとんどないため、裁判所に「発信者情報開示請求訴訟」を提起することになります。
裁判所に訴訟提起した後,通常は2~3回程度の口頭弁論が開かれ,結審したら判決が出ます。請求が認容されれば、判決が確定してから概ね2週間程度で経由プロバイダから発信者の住所,氏名などの情報が開示されます。
2022年10月1日より施行された新たな裁判手続き
2022年10月1日に改正プロバイダ責任制限法が施行されたことで、「発信者情報開示命令」という新しい裁判手続きの運用が始まりました。
発信者情報開示命令の特徴は、サイト管理者への開示命令の申し立てとプロバイダへの開示命令の申し立てを併合させて一体的に審理し,迅速に開示してもらう点にあります。
特に,サイト管理者から経由プロバイダを教えてもらう「提供命令」に特徴があります。これにより従来の発信者情報開示請求に比べ、IPアドレスなどの迅速な保全が可能になったり、手続きの負担の軽減ができたりするようになりました。
【参考記事】発信者情報開示命令申立て | 裁判所
IPアドレスの開示請求にかかる期間と費用
IPアドレスの開示請求にかかる期間や費用(弁護士費用を除く)は、任意開示若しくはか法的手続きのいずれかによって大きく異なります。
ここでは、IPアドレスの開示請求にかかる期間と費用それぞれの目安について確認しましょう。
IPアドレスの開示請求にかかる期間の目安
IPアドレスの開示請求にかかる期間の目安は、以下のとおりです。
【手続別のIPアドレスの開示請求にかかる期間】
手続の種類 |
期間の目安 |
任意開示 |
開示申請から2~4週間程度 |
法的手続 |
仮処分命令の申立てから1~2ヵ月程度 |
IPアドレスの開示請求にかかる費用の目安
IPアドレスの開示請求にかかる費用の目安は、以下のとおりです。
【手続別のIPアドレスの開示請求にかかる費用】
手続の種類 |
費用の目安 |
任意開示 |
印刷代や郵便代など:0~数百円 |
法的手続 |
印紙代:2,000円程度、切手代:3,000円程度、担保金:10万円程度 |
※仮処分命令の場合は法務局に担保金を納める必要があります。
発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリット
サイト管理者へのIPアドレスの開示請求は、弁護士への依頼が必須ではありません。
しかし、任意での開示請求に応じるサイト管理者は多いとは言えず,基本的には法的手続きが必要になる場面がほとんどでで,個人での対応は負担が大きいため、IT事件を専門とする弁護士に依頼する方がよいでしょう。
ここでは、発信者情報開示請求を弁護士に依頼するメリットについて解説します。
投稿者を特定するために必要な手続きを任せることができる
発信者情報開示請求では、裁判所に提出する申立書や証拠書類などを用意したり、裁判官との審尋期日に出頭し,口頭で主張や疎明を行ったり,サイト管理者側からの膨大な反論にも対応する必要があります(特に大手プラットフォーマーの場合は強く争ってくるケースが珍しくありません)。
また,仮に仮処分命令が発令された場合,本人で担保金の提供を法務局(裁判所とは別の機関)に行う必要があります。
個人でこのような対応を平日に行うことは非常に煩雑かつ,一定の経験がなければ困難であると考えられます。
手続きに時間がかかり,いつの間にかログ(発信者情報)保存期限を徒過してしまう,というリスクもあるでしょう。
IT事件に精通している弁護士に依頼する場合は、このような複雑で手間のかかる作業を一任することができます。
投稿者を特定したあとの対応も依頼することができる
投稿者を特定したあとの対応には、以下のようなものが考えられます。
- 加害者に損害賠償を請求する
- 投稿の削除や謝罪を求める
- 刑事告訴をする
インターネット上でプライバシー権や名誉権などを侵害されている場合、基本的にその発信者に対して損害賠償を請求できます。
しかし、刑事告訴については、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪に該当している必要があります。
弁護士に依頼して刑事告訴の代理人となってもらうことができれば,刑法のどの犯罪に該当するかといった検討や,警察とのやり取りについて対応してもらうことができます。
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IPアドレスが判明しても投稿者の特定が難しいケースもある?
発信者のインターネット環境などによっては、その発信者の特定が困難である場合が少なくありません。
ここでは、発信者を特定するのが難しいケースについて確認しましょう。
海外のサーバーを経由されている
プロキシサーバーとは、インターネット通信の中継をおこなうサーバーのことです。発信者が海外プロキシサーバーを利用していた場合、そのサーバー会社への開示請求が必要になります。
しかし、準拠法や裁判所の管轄権などの関係から、開示請求自体ができなかったり、開示請求に時間や費用が多くかかったりする可能性があり、発信者を特定するための難易度が高くなります。
公衆無線LANを利用していた
公衆無線LANとは、飲食店や公共施設などで利用できる大衆向けのインターネット接続サービスのことです。
発信者が公衆無線LANを利用していた場合、発信者情報開示請求で特定できるのは公衆無線LANを提供している運営会社のIPアドレスとなります。
そのため、実際に誰が投稿したのかまで特定するのは困難となります。
集合住宅から投稿されている
インターネット付き集合住宅、ネットカフェ、ホテルなどから投稿されている場合も、発信者の特定は難しいといえます。
IPアドレスからそれぞれの管理会社や建物などは特定できますが、管理会社などが利用者のアクセス状況を管理していることは少ないため、実際にどこの住人(部屋)から投稿されたのかまでは特定できない場合が多いです。
IPアドレス以外のルートからの特定可能性
以上のとおり,IPアドレスからの投稿者特定に限界があることは否めません。
そこで,電話番号やメールアドレスなどを保有しているサイト管理者の場合,IPアドレスではなくこれらの情報を発信者情報として開示請求することが考えられます。
電話番号が開示されれば,通信会社を特定し,電話番号の保有者(契約者)を特定することができます。
ただし,電話番号の保有者が必ずしも投稿者とは限らず,また,メールアドレスが開示されてもフリーメールの場合,結局特定は難しいので,この方法も限界があることは否めません。
まとめ|弁護士に開示請求を依頼するなら「ベンナビIT」
インターネット上で権利侵害をされた場合、最初に発信者を特定する必要があります。
サイト管理者や経由プロバイダに発信者情報の任意開示を求めることはできますが、開示を行うためには法的手続きが必要になる場面が圧倒的に多いと考えられます。
法的手続きは複雑で手間もかかるため、IT事件に精通している弁護士に依頼するのがおすすめです。
「ベンナビIT」には、インターネットトラブルや発信者情報開示請求が得意な弁護士事務所を多数掲載しているので、ぜひご活用ください。
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