インターネット上で匿名の投稿者により権利侵害をされた場合、「発信者情報開示請求」をおこない、加害者を特定する必要があります。
加害者を特定するための手続きには現在、2通りの方法があります。
この記事では、ネットトラブルに巻き込まれた方に向けて、発信者情報開示請求の基礎知識から発信者情報開示請求をするための要件、大まかな流れ、費用の目安について解説しています。
また、問題解決に向けて弁護士に依頼したい方に向けておすすめの相談先についても紹介します。
発信者情報開示請求って自分でもできるのかな...と気になっていませんか?
結論から言うと、開示請求は自身でおこなうことも可能です。しかし、法的手続きが必要になった場合は書類や面談などの複雑な手続きが必要になります。
あなた自身に大きな負担をかけないためにも、弁護士への相談・依頼をおすすめします。弁護士に相談・依頼すると、以下のようなメリットを得ることができます。
- 開示請求が認められるか判断してもらえる
- 開示請求をスムーズに進めるためのアドバイスを得られる
- 依頼すれば、開示請求に必要な手続きを一任できる
- 依頼すれば、投稿者特定後の刑事告訴なども対応してもらえる
ベンナビITでは、発信者情報開示請求を得意とする弁護士をあなたのお住まいの地域から探すことができます。無料相談・電話相談などに対応している弁護士も多いので、まずはお気軽にご相談ください。
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発信者情報開示請求とは?開示請求をする有効性
発信者情報開示請求とは、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称プロバイダ責任制限法)第5条に基づく投稿者(発信者)の個人情報を開示させるための手続きを指します。
加害者を特定できれば、損害賠償などの民事責任を追及したり、場合によっては刑事責任を追及できたりします。
2001年11月に施行された時点では、開示手続きは1種類のみでしたが、2022年10月に改正プロバイダ責任制限法が施行されたことで、現在は従来の「発信者情報開示請求」と新設の「発信者情報開示命令」の2種類の手続きで請求ができます。
以下、新設された手続きと従来の手続きの違いについて確認しましょう。
発信者情報開示命令と従来の手続きの違い
改正プロバイダ責任制限法で新設された発信者情報開示命令の特徴のひとつは、通常の訴訟手続きと異なる「非訟手続き」が採用されている点です。
従来の発信者情報開示請求では、被害者は発信者を特定するためにサイト管理者とプロバイダそれぞれについて審理が必要でした。
しかし、新設の発信者情報開示命令では「一体的な審理」で発信者の特定が可能となり、従来よりも少ない負担で加害者を特定できるようになっています。
【非訟手続きと従来手続きの使い分けポイント】
- 非訟手続き:素早く加害者を特定したい場合に有効な手続き
- 従来手続き:プロバイダなどが争う姿勢を見せる場合に有効な手続き
発信者情報開示請求をする際に満たすべき7つの要件
インターネット上で権利侵害をされた人が発信者情報開示請求をするためには、プロバイダ責任制限法に規定されている一定の要件を満たしている必要があります。
ここでは、発信者情報開示請求をするのに必要となる要件について、それぞれ確認しましょう。
①インターネット上で誰もが閲覧可能な情報発信であること
特定電気通信とは、不特定の人によって受信(閲覧)されることを目的とした情報のことを指します。たとえば、ネット掲示板やブログ、SNS、口コミサイトなどへの投稿が該当します。
一方、メールやチャット、DMなどのような、特定の人しか閲覧できない内容は対象外となります。
そのほか、不正アクセスやハッキングのほか、ネット詐欺の被害にあった場合なども同様に、発信者情報開示請求の対象外となります。
②開示請求者が「自己の権利が侵害された者」自身であること
開示請求者が未成年者などの場合は法定代理人が手続きできますが、それ以外の場合は本人または弁護士(任意代理人)が手続きをする必要があります。
仮に友人や同僚のために発信者情報開示請求をしようとしても、その手続きは認められないので注意が必要です。
③権利を侵害されたことが明らかであること
一般的に「権利侵害の明白性」と呼ばれる問題で、発信者情報開示請求においては請求者(被害者側)が「違法性阻却事由がなかったこと」を証明する必要があります。
たとえば、名誉毀損に該当する投稿の場合、以下のような違法性阻却事由がないことの証明が求められます。
【名誉毀損罪の違法性阻却事由】
- 公共性:公共の利害に関わる事実であること
- 公益性:その目的が専ら公益のためであること
- 真実性:その内容が真実であると証明できること
※被害者側は上記のいずれかを欠いていることを証明する必要がある。
(公共の利害に関する場合の特例) 第二百三十条の二
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
④開示請求者が発信者の情報を取得するのに正当な理由があること
開示請求者の目的が「削除請求をするため」「損害賠償請求をするため」「刑事告訴をするため」などの場合は、基本的には発信者情報開示請求が認められます。
しかし、その請求が不当と判断された場合は、発信者情報開示請求の要件を満たさないことになります。
⑤発信者情報に該当していること
発信者情報開示請求で開示を求められる情報は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第五条第一項の発信者情報を定める省令によって、具体的に規定されています。
以下の情報以外については、開示を求めることができません。
【発信者情報開示請求で請求できる情報の種類】
- 氏名または名称
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- IPアドレスおよびポート番号
- インターネット接続サービス利用者識別符号
- SIMカード識別番号
- タイムスタンプ
⑥開示請求の相手が「開示関係役務提供者」であること
開示関係役務提供者とは特定電気通信役務提供者や関連電気通信役務提供者などを指し、具体的にはサイト管理者・運営者、サービス事業者、サーバー提供者、プロバイダなどが当てはまります。
相手方が開示関係役務提供者に該当しない場合は、請求が認められません。
⑦「開示関係役務提供者」が発信者情報を保有していること
発信者情報の開示を開示関係役務提供者に求めた場合でも、その情報を保有していなかったり、開示する権限を持っていなかったりする可能性も考えられます。
このように、開示関係役務提供者が発信者情報を保有していない場合は、開示請求をすることができません。
発信者情報開示請求のやり方|流れと期間
ここでは新設された「発信者情報開示命令」と従来の「発信者情報開示請求」の方法流れについて確認しましょう。
なお、任意開示の方法もありますが、ここでは裁判所を介しておこなう法的手続きについて解説します。
新設された発信者情報開示命令(非訟手続)の流れ
改正プロバイダ責任制限法で新設された発信者情報開示命令では、サイト管理者に対する開示命令の申し立てとプロバイダに対する開示命令の申し立てが一体的に審理されることが特徴です。
発信者情報開示命令の大まかな流れは、以下のとおりです。
【新設された裁判手続きのイメージ】
①裁判所に発信者情報開示命令の申し立てをする
新設された手続きでは、まず裁判所に対してサイト管理者(コンテンツプロバイダ)を相手方とし、発信者のIPアドレスなどの開示を求める「発信者情報開示命令」の申し立てをおこないます。
また、同時に「提供命令の申し立て」という手続きをすることで、サイト管理者から発信者が利用しているプロバイダを開示してもらうことができます。
②プロバイダへの発信者情報開示命令を追加する
次に、サイト管理者に対する開示命令の申し立てをした裁判所に対して、提供命令によって開示されたプロバイダを相手方とする「発信者情報開示命令」の申し立てをおこないます。
プロバイダには、発信者の氏名や連絡先などを開示するよう求めます。また、このときにログ情報が削除されないよう「消去禁止命令」の申し立て手続きも実施します。
③一体的に審理してもらうための手続きをおこなう
その後、サイト管理者に「プロバイダへ発信者情報開示命令の申し立てをした」と伝えると、サイト管理者はプロバイダへ発信者のIPアドレスなどの情報を提供します。
また、サイト管理者は裁判所に「プロバイダへIPアドレスを提供した」ことも通知します。これにより裁判所は①と②を併合し「ひとつの事件」として審理してくれます。
従来の発信者情報開示請求の流れ
従来の発信者情報開示請求では、まずサイト管理者からIPアドレスなどの開示を受け、その後、プロバイダから発信者の氏名・連絡先を開示してもらうことになります。
発信者情報開示請求の大まかな流れは、以下のとおりです。
①裁判所に発信者情報開示仮処分命令の申し立てをする
まず、裁判所に対してサイト管理者(コンテンツプロバイダ)を相手方とし、発信者のIPアドレスやタイムスタンプなどの開示を求める「発信者情報開示仮処分命令」の申し立てをおこないます。
そして、裁判官との審尋(面談)がおこなわれ、一定の担保金を法務局に収めると、裁判所から仮処分命令の発令がおこなわれます。
②被害者がIPアドレスから発信者のプロバイダを特定する
裁判所からサイト管理者などにIPアドレス開示決定が送達されると、1~2週間程度でサイト管理者からIPアドレスやタイムスタンプが開示されます。
そこで今度は、ネットのサービスなどを用いて、IPアドレスをもとにプロバイダを特定します。
代表的なプロバイダにはOCN、So-net、DTI、BIGLOBE、ぷらら、WAKWAKなどがあります。
③裁判所に発信者情報開示請求訴訟を提起する
次に、裁判所に対してプロバイダを相手方とし、発信者の氏名や住所、連絡先などの開示を求める「発信者情報開示請求訴訟」を提起します。
裁判所が訴状を受理するとその後、2~3回程度の審理がおこなわれます。そして、この裁判に勝訴することができれば、裁判所からプロバイダに発信者の氏名や住所などを開示するよう命令が出されます。
発信者情報開示請求にかかる期間
従来の発信者情報開示請求に要する期間は、法的手続きが必要になった場合は「半年から1年程度」が目安となっています。
一方、新設された発信者情報開示命令に要する期間は、「3~4ヵ月程度」が目安です。
ただし、発信者情報開示命令を求めても、異議申し立てにより通常裁判に移行した場合は開示までに期間を要することがあります。
発信者情報開示請求は自分でできる?
発信者情報開示請求は、被害者ひとりでおこなうことも可能です。特に、サイト管理者やプロバイダが任意開示に応じてくれる場合は、少ない負担で対応できます。
しかし、法的手続きが必要になった場合は、裁判所に提出する申立書や証拠書類などを用意したり、裁判所で面談を受けたりするなどの手続きをしなければなりません。
これらは大きな負担となってしまうため、できる限り「IT問題を得意としている弁護士」に依頼することをおすすめします。
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発信者情報開示請求にかかる費用
発信者情報開示請求にかかる費用は、大きく「手続きにかかる費用」と「弁護士に依頼する費用」の2つに分けられます。
ここでは、発信者情報開示請求にかかる費用についてそれぞれ確認しましょう。なお、ここでは従来の「発信者情報開示請求」の場合を例に解説しています。
発信者情報開示請求手続きにかかる費用
発信者情報開示請求にかかる手続き費用は、以下のとおりです。
なお、任意開示の場合は印刷代や郵便代などしかかからないため少額ですが、法的手続きをおこなう場合は収入印紙代、切手代、担保金などが必要になるため高額になります。
なお、金額は裁判所によって異なるため、手続きをする際には事前に管轄の裁判所に確認しておきましょう。
【開示請求に要する手続き費用の内訳と目安】
依頼内容 |
手続き |
費用 |
サイト管理者への 開示請求 |
任意開示 |
印刷代や郵便代など:0~数百円 |
法的手続き |
収入印紙代:2,000円程度、切手代:1,000円程度、担保金:10万円程度 |
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プロバイダへの 開示請求 |
任意開示 |
収入印刷代や郵便代など:0~数百円 |
法的手続き |
収入印紙代:1万3,000円程度、切手代:6,000円程度 |
発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合にかかる費用
発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合の費用の目安は、以下のとおりです。
なお、金額はあくまで目安であるため、弁護士に依頼する際には必ず確認しましょう。
【開示請求に要する弁護士費用の内訳と目安】
依頼内容 |
手続き |
費用 |
サイト管理者への 開示請求 |
任意開示 |
着手金:5万円程度、報酬金:10万円程度 |
法的手続き |
着手金:20万円程度、報酬金:15万円程度 |
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プロバイダへの 開示請求 |
任意開示 |
着手金:5万円程度、報酬金:10万~20万円程度 |
法的手続き |
着手金:20万~30万円程度、報酬金:15万~20万円程度 |
発信者情報開示請求を相談・依頼できる弁護士の探し方
発信者情報開示請求(命令)の手続きは複雑であるため、できる限りIT問題が得意な弁護士に依頼するのがおすすめです。
ここでは、発信者情報開示請求を相談・依頼できる弁護士の探し方について解説します。
ベンナビIT
ベンナビITは、インターネット上のトラブル解決が得意な弁護士事務所を掲載しているポータルサイトです。
弁護士事務所を探す際に相談したい内容を選択でき、近くにある「発信者情報開示請求」が得意な事務所も見つけることが可能です。
弁護士事務所によっては「電話相談可能」や「初回相談無料」などにも対応しているため、すぐに相談したい、初期費用を抑えたいなどの希望がある方にもおすすめです。
弁護士会
地域の弁護士会によっては、積極的にインターネットトラブルの解決に努めている場合もあります。
たとえば、第二東京弁護士会では「インターネットトラブル法律相談」を実施しており、ネットトラブルを得意とする弁護士が相談に応じてくれます。
地域の「法律相談センター」を探して、ネットトラブル相談の開催有無などを確認してみましょう。
まとめ|発信者情報開示請求はIT問題に注力している弁護士に
発信者情報開示請求には「従来の手続き」「新設された手続き」の2種類がありますしかし、ネットトラブルに慣れていないと「自分にとってどちらが適しているのか」を判断するのは難しいでしょう。
そこで発信者情報開示請求を検討しているなら、IT問題が得意な弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、おすすめの手続きを判断してくれますし、実際の手続きも任せることができます。
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