自分や家族が職場や学校でいじめ被害にあったとき、裁判を起こすことは状況改善ための手段の一つです。
裁判に勝った場合、相手側や所属する組織への責任追及や、損害賠償を請求することができ、被害が公に認知されて環境事態も改善に向かう可能性が高いです。
しかし、実際に裁判を起こすにはある程度の費用を用意する必要があります。また、裁判の費用だけではなく、いじめ被害を証明する資料も必要になります。
この記事では、いじめによる裁判の費用や必要となるもの、実際の事例なども紹介しています。内容を参考にしながら万全の状態で裁判に挑めるようにしておきましょう。
交通事故トラブルが発生した際、個人のみで対応しようとすると過失割合や示談交渉で不利になる傾向にあるため、弁護士へ依頼される方が多くいます。
状況によっては高額な弁護士費用が必要になることもありますが、事前にベンナビ弁護士保険に加入しておけば弁護士費用の負担を軽減できます。
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いじめ被害を受けたときに裁判を起こすメリット
いじめの被害を受けたときに裁判で解決を図る場合、次のようなメリットがあります。
- 犯罪行為としていじめの刑事責任を追及する
- いじめの民事責任を追及し損害賠償を請求する
- 加害者が所属する組織内での制裁を与える
- 被害者の環境改善
それぞれ詳しく解説します。
犯罪行為としていじめの刑事責任を追及する
まず、いじめ加害者の行為が犯罪行為であれば、その加害者に刑事責任を追及できます。
いじめとして認識される行為には、次のようなものがあります。
- 殴る・蹴るなどの身体的攻撃
- 公衆の面前での誹謗中傷
- 差別的な言葉で罵る
これらはそれぞれ、暴行や傷害、名誉毀損、侮辱の犯罪行為となる可能性があります。
裁判で加害者の犯罪行為が認められた場合、罰金や懲役といった刑事罰が与えられます。
いじめの民事責任を追及し損害賠償を請求する
加害者へ経済的な制裁を加えられるのは、いじめ被害で裁判を起こすメリットの一つです。
いじめの裁判では、加害者の民事責任を追及できます。
民事責任が認められれば損害賠償を請求でき、いじめが原因で働けなくなり、本来得られるはずの収入が減っている場合や失っている場合は損害賠償を、精神的苦痛を受けた場合は慰謝料を、加害者に支払わせることが可能です。
加害者が所属する組織内での制裁を与える
加害者の組織内での評価や経歴・学歴に制裁を与えられるのも、いじめの裁判を起こすメリットです。
裁判で加害者の刑事責任や民事責任を追及すると、加害者がおこなった行為が広く知れ渡ります。
裁判で訴えられている事実は、加害者が所属する組織での信用や評価に大きく影響する可能性があるでしょう。
加害者が会社員である場合は、会社から懲戒や解雇、減給などの処分が下される場合があります。また、加害者が学生の場合は停学や退学などの処分が下されることがあります。
被害者の環境改善
いじめの裁判を起こすことは、被害者が所属する組織の環境改善にも繋がる可能性があります。
会社には、従業員が安全に労働できるように配慮する職場環境配慮義務が課せられています。
一方で学校の場合は、学校教育法によって生徒の生命や身体の安全を守るべき安全配慮義務を負っています。
裁判によって加害者の民事責任が認められた場合、会社や学校はそれぞれが負う義務を怠ったとみなされ、民事上の損害賠償責任が問われます。
そのため、被害者が弁護士を雇っていじめに対処すると、会社や学校は組織としての責任を問われることを恐れ、いじめをやめさせる方向で対応する可能性が高くなるのです。
被害者が所属する組織内での生活環境が改善されたり、仕事の成果や日常生活の充足につながったりするのも、裁判を起こすメリットとなります。
いじめ被害による裁判に必要な費用と目安
いじめの被害に遭った場合に裁判を起こすメリットを解説しましたが、実際に裁判を起こすとなると、さまざまな費用が必要となります。
ここでは、いじめ被害による裁判に必要な費用の目安を解説します。
いじめ被害で裁判を起こす際に必要な費用
いじめ被害を受けて裁判を起こす場合、次の費用が必要になります。
- 訴訟費用
- 弁護士費用
訴訟費用とは、裁判を起こすために必要な費用で、原告側が立て替えて支払い、敗訴側が負担するのが一般的です。
弁護士費用とは、裁判への対応を弁護士に依頼するための費用で、原告側・被告側がそれぞれ費用を負担します。
弁護士へは裁判の対応だけでなく、人権救済申立や刑事告訴、示談交渉なども依頼することができます。
ただし、それぞれの案件で弁護士費用が発生するので、どの内容で対応を進めるのかは実際に弁護士と相談しながら進めましょう。
ここからは、裁判に必要になる2つの費用の内訳について解説します。
訴訟費用
訴訟費用の主な内訳は次のとおりです。
- 裁判所手数料
- 予納郵便代
- 証人の旅費・日当
- 鑑定費用
- 謄写費用
裁判所手数料は目的価額、つまり相手側に請求する損害賠償の金額によって納める金額が異なります。目的価額ごとの裁判所手数料の金額は次のとおりです。
訴訟の目的価額 |
裁判所手数料 |
100万円まで |
10万円ごとに1,000円 |
500万円まで |
20万円ごとに1,000円 |
1,000万円まで |
50万円ごとに2,000円 |
1億円まで |
100万円ごとに3,000円 |
50億円まで |
500万円ごとに1万円 |
50億円超え |
1,000万円ごとに1万円 |
引用元|裁判所 手数料
予納郵便代とは、裁判中の書類の送付など、連絡に使用される切手代を指します。利用する裁判所によって金額が異なり、たとえば東京地方裁判所では以下の金額になります。
条件 |
予納郵便代の金額 |
原告・被告がそれぞれ一名ずつ |
6,000円 |
原告・被告が一名ずつ増えるごと |
2,000円を追加で納める |
引用元|予納金額
裁判に証人を呼ぶ場合は、日当や旅費が発生します。日当は1日当たり8,000円程度を上限として、旅費は交通費や宿泊費などを実費で計算して支払います。
また、裁判で鑑定が必要な場合は、数十万円単位の費用の準備が必要です。
今後の対応の協議や調査のために、裁判所で作成された調書が必要な場合は、謄写費用も発生します。コピーする量によって金額は異なりますが、1万円から2万円程度みておくといいでしょう。
弁護士費用
弁護士費用の主な内訳は次のとおりです。
- 相談料
- 着手金
- 報酬金
- 日当
- 実費
相談料は、契約前の相談にかかる費用です。30分5,000円から1万円程度が一般的ですが、相談回数や相談時間に応じて金額設定されているケースや、一定回数までの相談は無料になるケースもあります。
着手金とは、正式に契約した際に発生する費用です。いじめ被害に対する裁判で、学校や加害者に対して損害賠償を請求する場合、定額制なら30万円前後、変動制なら請求額の10%前後が一般的な相場となるでしょう。
報酬金は、事件が解決した際に弁護士に支払う費用です。判決によって認められた損害賠償額の20%前後が相場になります。
日当とは、弁護士が事務所を空ける必要がある場合に発生する費用です。遠方への出張や裁判への出廷などがある場合に、半日単価または1日単価で金額が設定されています。
1日当たり3万円から5万円程度が相場ですが、裁判所への出廷については1回当たりの金額が別途設定されていることもあります。
実費は、書類作成や手続き、出張の交通費などの業務にかかった経費です。実際にかかった金額で請求される場合と、一律金額で設定されている場合があります。
弁護士費用は法律事務所によって金額が異なり想定よりも高額になることもあるため、事前に依頼した場合の金額を確認した上で、弁護士への依頼を進めるのが良いでしょう。
裁判にかかる費用の目安
いじめ被害を訴える裁判の費用の目安を考えてみましょう。ここでは、次の条件での裁判費用を計算します。
- ある人物1人がいじめ被害によって生じた身体的傷害と精神的苦痛に対する損害賠償請求裁判
- 東京地方裁判所で訴訟を起こす
- 原告1名・被告4名(加害者3名+組織)、証人なし、弁護士が3日出廷
- 合計1,000万円の損害賠償を請求
- 判決によって被告への500万円の損害賠償請求が認められる
この場合の訴訟費用は、8万4,000円です。
- 裁判所手数料:5万円
- 予納郵便代:1万4,000円
- 謄写費用:2万円
- 証人への旅費や日当、鑑定費用:なし
また、弁護士費用は約143万円です。
- 相談料:1万円
- 着手金:30万円
- 報酬金:500万円×20%=100万円
- 日当:3万円×3日=9万円
- 実費:3万円
今回の条件での損害賠償請求裁判では、訴訟費用8万4,000円、弁護士費用143万円で、合計151万4,000円の費用が必要になります。
ただし、訴訟費用は裁判所によって変動し、弁護士費用は法律事務所や賠償請求額によって変動するため、実際の費用がいくらになるのかは、事前に確認するようにしましょう。
裁判時の費用を抑える方法
裁判費用を安く抑えたい場合は、次の方法も検討してみましょう。
- 自治体主催の無料相談や弁護士事務所の無料相談サービスを利用する
- 法テラスを利用する
- ADRを利用する
- 弁護士費用特約を利用する
お住まいの自治体によっては、定期的に弁護士の無料相談会が実施されている場合があります。
そのほか、法律事務所によっては、初回相談や一定回数の相談を無料にしているケースもあり、うまく利用すれば相談料を節約できます。
弁護士費用の工面が難しい場合は、法テラスの民事扶助制度の利用も検討してみましょう。
財産が一定以下であるなど、所定の条件を満たせば、法テラスが着手金や実費を立て替えてくれ、利息なしの月々返済にすることが可能です。
ADRとは裁判外紛争解決手続きのことで、弁護士が間に入って加害者と話しをしてくれます。申立手数料が5,000円から1万円程度、紛争当事者での話し合い期日ごとに5,000円程度、交渉で事件が解決した場合に10万円から30万円程度の成立手数料がかかります。
ADRによるトラブルの解決は裁判を起こして弁護士に依頼するよりも、かなり費用を抑えられるのがポイントです。
最後に、加入している保険の弁護士費用特約を利用するのも有効です。いじめ被害の場合でも特約が利用できる場合は、自己資金を負担せずに弁護士に依頼できます。
いじめ被害による裁判までの流れ
いじめを解決する場合、裁判を起こすというのはトラブル解決のための最終手段です。裁判に至るまでの間に、いくつかトラブル解決のための方法があり、それでも解決しない場合にはじめて裁判を起こす形になります。
裁判にいたるまでの一般的な流れは次のとおりです。
- 損害賠償請求額を設定する
- 加害者などに賠償金の請求書を送付する
- 加害者などと示談交渉や民事調停をおこなう
- 刑事訴訟・民事訴訟をおこなう
損害賠償請求額を設定する
まずは、いじめによってどのような損害が出ているのかを確認します。
いじめによってけがをした場合の治療費、精神的苦痛に対する慰謝料、収入の減収や喪失がある場合の逸失利益がどれくらいか計算してください。
また、金品を渡している場合や物が破壊されているなど、いじめ被害に関係して被った金銭的な損害は相手に請求できるケースがあります。
損害の計算が難しい場合は、弁護士に損害の見積もりを出してもらうことも可能です。損害算定には相場や計算方法があるため、詳しい弁護士に依頼しましょう。
加害者などに賠償金の請求書を送付する
損害を算出できたら、加害者や親、学校、会社などに賠償金の請求額や、いじめの被害にあった事実、証拠などを書面にして送付します。
この際、内容証明郵便を利用することで、郵便物の内容や送付日、当事者などを郵便局に証明してもらえます。
内容証明郵便は自分で送付できますが、弁護士から送付してもらう方がいいでしょう。
弁護士に依頼することで、訴訟のことを踏まえた書面を相手に送ることができます。
書面の内容が自分の意見を述べただけで、一方的な主張に終始している場合、脅しと受け取られてしまう可能性もあります。
その場合、逆に被害者が不利になってしまうので、弁護士に法的根拠を交えた書面を作成してもらうようにしましょう。
また、弁護士の存在を示すことで、加害者に心理的なプレッシャーや被害者側の本気度を示せます。
加害者などと示談交渉や民事調停をおこなう
内容証明郵便を送付した後、一般的には、まず被害者側と加害者側で示談交渉がおこなわれます。
示談交渉は、損害賠償請求の可否や金額の交渉、加害者側からの謝罪などを求める話し合いとなります。
ただし、加害者側が損害賠償の支払いを拒否する場合や、いじめの事実を認めない場合は、示談交渉が決裂する場合があります。
もし示談交渉で解決しない場合は、民事調停を利用して解決を目指すことができます。
調停ではお互いの譲歩ポイントを探り、和解の道を検討しますが、実際は仲裁の意味合いが強いです。
そのため、お互い、あるいは一方が譲歩に応じず主張が対立している場合、民事調停では解決できない可能性もあります。
民事訴訟を行う
示談交渉や民事調停で解決しない場合は、裁判所で民事訴訟を起こします。
訴状を作成して裁判所に提出し、裁判官の訴状審査を経て、加害者側に訴状が送られます。
実質的な裁判の開始は、被害者側が相手に訴状を送付した時点からとなり、被害者を原告、加害者を被告として、公開法廷で審理がおこなわれます。
裁判は、裁判官が当事者同士の主張を聞きながら進行し、最終的には証拠を基にした事実認定や法律の適用により判決が下されます。
もし判決で損害賠償や慰謝料の支払いが命じられた場合、加害者側はそれに従うことになります。
いじめ被害による裁判で必要なもの
いじめ被害による裁判を起こす場合、証拠などが十分に揃っていなければ、いざ裁判を起こしても勝ちに至らず、相手に賠償を請求できない可能性もあります。
そのため、裁判に必要なものは可能な限り事前に準備しておきましょう。なお、もし集めた情報が十分かどうか不安な場合は、事前に弁護士に相談してみると良いでしょう。
実際にいじめ被害での裁判で必要なものは、以下となります。
- いじめ・嫌がらせの事実が確認できる証拠
- 裁判に必要な費用
いじめ・嫌がらせの事実が確認できる証拠
いじめ被害の裁判を起こす場合、いじめによって身体的傷害や精神的苦痛を受けたことを、原告側が証明する必要があります。
特に裁判では、裁判官が証拠に基づいて事実認定をおこないます。証拠がない状態では、いじめの被害が事実でも、訴訟でその事実を証明できず、裁判上で不利になってしまいます。
SNSでの書き込みや誹謗中傷のメール、けがを負ったときの写真や診断書など、いじめ被害を証明できる客観的な証拠を集めておきましょう。
裁判に必要な費用
繰り返しになりますが、いじめ被害の裁判を起こすにはお金がかかります。
先述した条件では、裁判費用は約150万円必要です。ただし、原告や被告の数、損害賠償請求額などによって費用は変動します。
証拠集めと並行して、裁判費用をどのように工面するのかも考えておきましょう。
いじめによる裁判で損害賠償が成立した事例
いじめ被害者やその家族が起こした裁判で、損害賠償が成立した事例を2つ紹介します。
事例1
滋賀県で中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺し、遺族が訴訟を起こした事例です。
当初、加害者と学校側はいじめと自殺の因果関係を認めていませんでしたが、第三社委員会の調査の結果、学校側が責任逃れ・隠ぺい工作をおこなっていたことが判明しました。
結果、加害者と学校は和解金約1,300万円を遺族に支払い陳謝しました。
その後の裁判では、一定期間の重大ないじめの事実があったこと、加害者が被害者の自殺を予見できたことから、いじめと自殺の因果関係を認定。一審の大津地裁では、加害者2人に対して約3,758万円の損害賠償金の支払いが命じられました。
事例2
生徒が自殺したのはいじめが原因であるとして、学校側に損害賠償を請求した事例です。
ある生徒は、同校生徒たちによる集団暴力行為を苦にして自殺、前年には無断欠席が続き、自殺未遂を起こしていることを両親が発見していました。
両親は生徒と教諭で面談をおこないましたが、生徒自身は遊んでいてできた傷と説明、教諭は注意深く見守るとしたものの、情報の共有や他生徒への聞き取りはおこないませんでした。
その後もいじめは継続され、生徒は自殺に追い込まれました。
判決では、教諭たちが適切に対応していればいじめの苛烈化を防げたとし、学校側の安全配慮義務違反と自殺の因果関係を認定。学校側に対して約1,269万円の損害賠償の支払いを命じ、その後学校には理事長と学校長の連名で謝意文が提示されました。
最後に|いじめ被害による裁判費用を把握し万全の準備を整えよう
裁判を起こすためには訴訟費用や弁護士費用が必要になります。決して安い金額ではないので、この記事で紹介している費用感を目安に準備を進めておきましょう。
また、裁判で勝つためにはいじめ被害を証明するための証拠も必要になります。
もしも現状で被害にあっている方は、証拠になりそうな情報はできるだけ記録に残すようにしましょう。
ただし、費用や証拠集めのため無理に我慢して、精神や身体に影響が出てしまっては本末転倒です。
そのため、状況に耐えられなさそうな場合は、弁護士に相談してみるのも良いかもしれません。
無理のない範囲で準備を進めつつ、本記事の内容も参考にしながら状況改善に努めてみてはいかがでしょうか。