インターネットサービスプロバイダの大手であるBIGLOBEが実施した「withコロナ時代のストレスに関する調査」によると、20~60歳代の調査対象者(SNSを利用している男女770名)のうち、17.5%の人が「SNSで他者から誹謗中傷されたことがある」と回答しています。
年代別でみると、20歳代では10.0%が「よくある」、18.9%が「たまにある」と回答しており、誹謗中傷を受けた経験がある人は3割弱に達していることが判明しました。
30歳代・40歳代でもそれぞれ2割弱が誹謗中傷を受けた経験をもっています。
一方で、他人を誹謗中傷した経験について全体では7.0%、20歳代では15.0%が「経験あり」と回答しており、その理由の多くは「対象が嫌いで我慢ならないから」というものでした。
SNSの利用者が増加するなか、誹謗中傷の被害を受けてしまう、あるいは他人を誹謗中傷してしまうことでトラブルに発展する事例も増えています。
とくに攻撃的な意図がなくても、強く批判したことで誹謗中傷にあたってしまうケースも少なくないので、インターネットの利用にあたっては「誹謗中傷とはどのような行為なのか」を正しく理解しておく必要があるでしょう。
この記事では、誹謗中傷と批判の違いや誹謗中傷が招く法的な責任、被害を受けたときの解決方法などを解説します。
目次
誹謗中傷の定義とは
「誹謗中傷」とは、一般的に「事実ではないことを根拠に悪口を言いふらす行為」と解釈されます。
口頭で悪口を言いふらす行為はもちろん、インターネット掲示板やSNSなどを利用した場合でも誹謗中傷にあたり、方法は問いません。
誹謗中傷と批判の違いについて
誹謗中傷との区別がつきにくいのが「批判」です。
ある意見について激しく論争する様は、批判にあたるのか、誹謗中傷になってしまうのかの区別がつきにくいでしょう。
批判とは、ある意見や主張について欠点を指摘するなどしたうえで検討を加えて判定・評価する行為です。
相手の意見や主張を尊重したうえで論じるという点に注目すれば、事実ではないことを根拠に悪口を言いふらす行為とはまったく別のものであることがわかります。
ただし、誹謗中傷と批判との間に明確な区別はありません。
自分では批判しているつもりでも、内容や口調によっては誹謗中傷になってしまうことがあるので注意が必要です。
インターネットにおける誹謗中傷の被害状況と原因
誹謗中傷が問題となるケースの多くは、SNSまたは掲示板を舞台としています。
インターネットにおける誹謗中傷の被害状況や原因をみていきましょう。
誹謗中傷トラブルの被害状況
総務省が公開している「SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について」によると、令和元年中に1,985件のインターネットにおける人権侵害事件が発生していることがわかります。
さらに、警察庁が公開している「平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、誹謗中傷に関する相談が年間1万件を超えて寄せられていることもわかります。
平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 誹謗中傷などの相談件数 9,757件 10,398件 11,136件 11,749件 11,406件
SNSで誹謗中傷が多発する原因
現代の誹謗中傷トラブルは、とくにSNSにおいて多発していますが、なぜSNSで誹謗中傷が多発しているのでしょうか?
誹謗中傷トラブルが起こる原因について解説いたします。
匿名性の高さ
インターネットの特徴である匿名性は、誹謗中傷を加速させます。
とくにSNSの多くは実名を明かさずアカウントネームでの投稿が可能であり、だれが加害者なのかが特定できないため、誹謗中傷を誘発させているのです。
間違った正義感
SNSユーザーのなかには「間違いを正してやる」という正義感から攻撃的な意見を投稿する人もいます。
正義感が強まると、誹謗中傷にあたる投稿でも「正しいことをしている」という誤った認識に陥ってしまうのです。
ネット上では相手の感情が分からない
SNS上でのやり取りでは、相手の顔が見えません。
返信を受けてコメントの応酬になっても相手の感情が読めず、相手を怒らせてしまっている、あるいは相手が傷ついているといった状況さえも把握できないのです。
罪の意識のなさ
多くのユーザーからの批判や非難が集中している相手に対しては、自分ひとりが誹謗中傷にあたる投稿をしても「みんなと同じ」としか感じなくなります。
いわゆる群集心理から罪の意識が希薄になってしまうことも原因のひとつであることには間違いありません。
誹謗中傷で訴えられた場合の法的責任と罰則
誹謗中傷にあたる行為があった場合は、刑事的な責任と民事的な責任の両方を負うことになります。
誹謗中傷の刑事責任
誹謗中傷は内容に応じて犯罪を構成するため、ここで挙げる犯罪に該当して処罰を受ける可能性があります。
名誉毀損罪
公然と事実を摘示して相手の社会的名誉をおとしめると、刑法第230条の名誉毀損罪が成立します。
罰則は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
侮辱罪
事実の摘示がない場合でも、公然と人を侮辱すると刑法第231条の侮辱罪が成立します。
「バカ」や「頭が悪い」といった表現でも、公然性があれば成立する犯罪です。
法定刑は拘留または科料というごく軽度のものですが、有罪となれば前科がつくことに変わりはありません。
信用毀損罪と業務妨害罪
虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した場合は、刑法第233条の信用毀損罪・業務妨害罪に問われます。
ここでいう「信用」とは経済的な信用を指すものであり、たとえば飲食店の評判をおとしめる目的でSNS等に、「腐った食材を使っている」などと虚偽の内容を投稿すれば本罪が成立するでしょう。
罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
脅迫罪
相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告知した場合は、刑法第222条の脅迫罪が成立します。
害悪を告知する方法に制限はないので、SNSにおける誹謗中傷でも危害を加える内容を含んでいれば脅迫罪に問われるでしょう。
罰則は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
強要罪
脅迫・暴行を用いて人に義務のないことをおこなわせたり、権利行使を妨害したりすると、刑法第223条の強要罪によって罰せられます。
誹謗中傷のうえで「ブログを閉鎖しろ」などと強いれば本罪が成立するでしょう。
法定刑は3年以下の懲役です。
誹謗中傷の民事責任
誹謗中傷をはたらくと、民法第709条を根拠として相手が受けた損害を賠償する責任を負います。
これを「不法行為責任」といい、故意にしても過失の場合でも行為者は刑事責任とは別に民事責任を果たさなくてはなりません。
損害賠償
誹謗中傷を受けた相手の精神的苦痛に対する慰謝料や、風評被害による売上げの減少など実際に生じた損害について賠償する責任を負います。
損害賠償は金銭によってなされるのが原則です。
名誉回復措置
不法行為については金銭によって賠償するのが原則ですが、名誉毀損については例外的に「名誉を回復するのに適当な処分」を求めることが可能です。
名誉を回復するのに適当な処分とは、謝罪広告の掲載などが考えられます。
過去に起こったSNS誹謗中傷と損害賠償が認められた事例
実際に起きたSNS上での誹謗中傷について損害賠償請求が認められた事例を紹介しましょう。
令和元年8月に起きた常磐自動車道におけるあおり運転事件について、容疑者の車に同乗していたとデマを流された女性が、愛知県内の元市議を相手に損害賠償を請求しました。
元市議は、SNS上で女性の顔写真を掲載し「早く逮捕されるよう拡散お願いします」などと投稿していたのです。
令和2年8月、東京地裁はデマを拡散して被害女性の社会的評価を低下させたと認定し、元市議に33万円の損害賠償の支払いを命じています。
元市議は「損害は不特定多数の書き込みによるもの」「すでにほかの加害者からの和解金で損害は補填されている」などと主張しましたが、裁判所はこの主張を認めませんでした。
【参考】「ガラケー女」デマ拡散、元市議に33万円の賠償命令|朝日新聞
誹謗中傷に対しての企業や政府の取り組みと対策
インターネット上での誹謗中傷は大きな社会問題となっており、さまざまな業界が協力してトラブルの防止やマナー向上に向けた取り組みを展開しています。
SNSを運営する企業
約款やポリシーを整備し、誹謗中傷にあたる投稿を禁止事項とすることで、禁止行為があった場合の削除・アカウント停止といった処分がスムーズに運ぶように整備を進めています。
一般企業・団体
自社のサイトにおける禁止事項を明示する、健全なSNS利用に向けた啓発活動やコンテンツを掲載するといった活動のほか、捜査機関への協力や政府との連携をはかっています。
政府
総務省が主導となり、インターネットの安全利用に向けた啓発活動を展開しています。
企業・団体と協力した出前講座の開催やトラブル事例集などの公開にも積極的です。
また、加害者の特定がスムーズに進むための法整備も政府の役目として検討をかさねています。
SNSで誹謗中傷を受けてしまったら?誹謗中傷の無料相談窓口
SNSで誹謗中傷を受けてしまい「どうやって対応すればよいのか」と悩んでいる方は、無料でアドバイスをくれる窓口への相談をおすすめします。
インターネット人権相談受付窓口(法務省)
法務省の人権擁護機関がパソコン・スマートフォンからの相談を受け付けてくれる窓口です。
相談フォームに氏名・住所・年齢・相談内容などを入力して送信すると、最寄りの法務局から後日メール・電話でアドバイスを回答してくれます。
警察署・都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口
都道府県警察本部に置かれているサイバー犯罪相談窓口では、メール・電話による相談を受け付けています。
また、最寄りの警察署でも相談が可能です。
一般社団法人セーファーインターネット協会
インターネット企業有志によって運営されているセーファーインターネット協会では、誹謗中傷にあたる情報の受付のほか、誹謗中傷ホットラインを開設して国内外のプロバイダに対して削除対応を促す通知をおこなっています。
サイトの利用規約に従った削除が期待できる場合はこちらへの相談で解決できる可能性が高いでしょう。
誹謗中傷被害に遭ったら弁護士に依頼すべき?流れと慰謝料相場
インターネット上での誹謗中傷被害に遭ってしまい、対応方法に悩んでいる場合は、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に依頼した場合の解決手段と流れ
弁護士に相談すれば、誹謗中傷にあたる投稿の削除や加害者の特定が可能です。
削除請求
被害者の代理人となり、サイト管理者に対して投稿の削除を請求します。
利用規約・プライバシーポリシーを正確に解釈できる弁護士が請求すれば、サイト管理者が削除に応じてくれる可能性は高いでしょう。
発信者情報開示請求
サイト管理者に対するIPアドレスの開示請求とインターネットプロバイダに対する発信者情報の開示請求を二段階で実施する手続きです。
加害者が匿名の場合でも、発信者情報開示請求によって個人が特定できます。
損害賠償請求・刑事告訴
加害者が特定できていれば、裁判所に訴えて損害賠償を請求することも、警察に告訴して処罰を求めることも可能です。
誹謗中傷による慰謝料相場
誹謗中傷が名誉毀損にあたる場合、慰謝料額の相場は個人で10~50万円、企業や事業主であれば50~100万円だといわれています。
侮辱にあたる場合は1~10万円程度です。
ただし、これはあくまでも一般的な相場であり、この範囲よりも高い慰謝料を獲得できることがあれば、もっと安くなってしまうケースもあります。
弁護士費用相場
弁護士に法律相談をした場合は、30分あたり5,000円程度の相談料がかかります。
また、正式に依頼した時点で着手金が、依頼が成功したときには報酬金の支払いが必要です。
依頼内容別の着手金・報酬金の相場は次のとおりです。
着手金 | 報酬金 | |
---|---|---|
削除請求の代行 | 5~10万円 | 5~10万円 |
裁判手続きによる削除請求 | 20万円 | 15万円 |
発信者情報開示請求 | 20~30万円 | 15~20万円 |
損害賠償請求(交渉) | 10万円 | 回収額の16% |
損害賠償請求(裁判) | 20万円 | 回収額の16% |
このほかにも、弁護士が事務所外で活動する際の日当や交通費、裁判所に支払う手数料などの実費が発生する場合もあります。
【最後に】問題が大きくなる前に対策を
SNSで誹謗中傷を受けた場合、思わぬ速度で情報が拡散されてしまうおそれがあります。
ひとたび拡散されてしまった情報を収束させるのは困難なので、ただちに弁護士に相談して投稿の削除や加害者の特定といった対策を講じるべきです。
弁護士への相談や依頼には弁護士費用がかかります。
弁護士費用保険メルシーは、SNS上での誹謗中傷トラブルを初回60分無料で相談できる弁護士をご紹介することもできますし、保険金として着手金・報酬金の一部を補償することができます。
家族全員の誹謗中傷トラブルを月々2,500円の保険料で弁護士費用の一部をカバーできるので、いざというときでも弁護士のサポートを求めやすくなるでしょう。
誹謗中傷トラブルに不安を感じているなら、ぜひ弁護士費用保険メルシーへの加入をご検討ください。